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東京地方裁判所 平成元年(行ウ)49号 判決

東京都港区東新橋二丁目一二番七号

原告

コモドール・ジャパン株式会社

右代表者代表取締役

東海太郎

右訴訟代理人弁護士

宮武敏夫

若井隆

右訴訟復代理人弁護士

園山俊二

高木施文

東京都港区芝五丁目八番一号

被告

芝税務署長 川嶋象介

右訴訟代理人弁護士

西修一郎

右指定代理人

古江頼隆

時田敏彦

蓑田徳昭

野末英男

主文

1  被告がいずれも昭和六〇年九月二〇日付けでした

(一)  原告の昭和五六年七月一日から昭和五七年六月三〇日までの事業年度の法人税に係る更正(裁決によって一部取り消された後のもの)

(二)  原告の昭和五七年七月一日から昭和五八年六月三〇日までの事業年度の法人税に係る更正(裁決によって一部取り消された後のもの)及び過少申告加算税賦課決定(裁決によって一部取り消された後のもの)

(三)  原告の昭和五八年七月一日から昭和五九年六月三〇日までの事業年度の法人税に係る更正(裁決によって一部取り消された後のもの)及び過少申告加算税賦課決定(裁決によって一部取り消された後のもの)のうち、いずれも所得金額を九億三一九二万二一四七円として計算される納付税額を超える部分

を取り消す。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六〇年九月二〇日付でした

(一) 原告の昭和五六年七月一日から昭和五七年六月三〇日までの事業年度(以下「昭和五七年六月期」という。)の法人税に係る更正(以下「昭和五七年六月期更正」という。)

(二) 原告の昭和五七年七月一日から昭和五八年六月三〇日までの事業年度(以下「昭和五八年六月期」という。)の法人税に係る更正(裁決によって一部取り消された後のもの、以下「昭和五八年六月期更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(裁決によって一部取り消された後のもの。以下「昭和五八年六月期賦課決定」という。)

(三) 原告の昭和五八年七月一日から昭和五九年六月三〇日までの事業年度(以下「昭和五九年六月期」という。)の法人税に係る更正(裁決によって一部取り消された後のもの、以下「昭和五九年六月期更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(裁決によって一部取り消された後のもの、以下「昭和五九年六月期賦課決定」という。)

を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和五七年六月期、昭和五八年六月期及び昭和五九年六月期の法人税について、原告が青色申告書によってした確定申告及び同修正申告、被告がした昭和五七年六月期更正、昭和五八年六月期更正及び昭和五九年六月期更正(以下、一括して「本件各更正」という。)、昭和五八年六月期賦課決定及び昭和五九年六月期賦課決定(以下、一括して「本件各賦課決定」という。)並びにこれらに対する原告の不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表一ないし三(経過表)に記載のとおりである。

2  本件各更正の更正通知書に記載された理由付記は、更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示せず、かつ、被告の判断過程を省略することなく記載していないから違法であり、また、本件各更正には各期の原告の所得を過大に認定してされた違法がある。したがって、本件各更正は違法であり、これを前提とする本件各賦課決定も違法である。

よって、本件各更正及び本件各賦課決定の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認め、同2は争う。

三  抗弁

1  本件各更正の理由付記について

法人税法(以下「法」という。)一三〇条二項が、青色申告に係る法人税について更正する場合につき、その更正通知書に更正の理由を付記すべき旨を規定しているのは、青色申告制度を採用した趣旨に鑑み、処分庁の判断の慎重さと合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に基づくものである。

したがって、更正の理由付記の程度は、相手方をして客観的に更正の理由を覚知しうるものであれば足りる。帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合(以下「帳簿否認による更正」という。)には、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけでなく、帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって、更正をした根拠を具体的に明示することを要するが、これに対し、帳簿書類に記載された基本的事実を前提にし、単に帳簿書類の記載の法的評価に係る見解を異にして更正をする場合には、帳簿に記載された金額に争いはないのであるから、更正の理由付記としては、課税庁の当該法的評価ないし法的判断の結論とあいまって、それがどの事実に対するものであるかが明確に判別できる程度に表示されていれば足り、それ以上に当該法的評価ないし法的判断の根拠となった事実を記載する必要はないというべきである。

これを本件についてみると次の(一)ないし(六)のとおりであって、本件各更正の理由付記に欠けるところはない。

(一) 研究開発費の否認(昭和五七年六月期及び昭和五八年六月期)について

これは、いずれも原告の申告に係る研究開発費の帳簿記載を否認したものではなく、その記載を前提にして、これが原告ではなくバハマ国法人コモドール・エレクトロニクス・リミテッド(以下「CEL社」という。)が負担すべきものであると判断したものである。したがって、その更正の理由付記において帳簿記載以上に信憑力のある資料の摘示は不要であるが、本件各更正の付記理由においては、右の法的判断をした根拠として、原告が所持していた昭和五九年三月三〇日付インターオフィス・メモランダム(以下「I/Oメモ」という。)の付属書Ⅶを掲げている。

(二) 消耗品の否認(昭和五八年期及び昭和五九年六月期)について

これは、原告の申告に係る消耗品費の帳簿記載を否認したものではなく、その記載を前提として、これが研究開発のための費用であって、(一)の研究開発費と同様、原告ではなくCEL社の負担すべきものであると判断したものである。したがって、その更正の理由付記において帳簿記載以上に信憑力のある資料の摘示は不要であり、そのような法的判断をしたことについて、その資料や根拠を摘示する必要もない。

(三) 広告宣伝費の寄付金認定(昭和五八年六月期)について

これは、原告の申告に係る広告宣伝費の帳簿記載を否認したものではなく、その記載を前提として、これが原告ではなくホームコンピューター株式会社(以下「ホーム社」という。)の負担すべきものであると判断したものである。したがって、その更正の理由付記において帳簿記載以上に信憑力のある資料の摘示は不要であり、そのような法的判断をしたことについて、その資料や根拠を摘示する必要もない。

(四) 貸付利息の寄付金認定(昭和五八年六月期及び昭和五九年六月期)について

これは、原告の申告に係る後記BV勘定の帳簿記載を否認したものではなく、その記載を前提として、これがCEL社に対する貸付金債権に当たるものであると判断し、そのうち貸付利息相当額を寄付金に当たるものと認定したものである。債権が売掛債権であるか、貸付債権であるかの判断は法的評価についてのそれであるから、その更正の理由付記において帳簿記載以上に信憑力のある資料の摘示は不要であるが、本件各更正の付記理由においては、右の法的判断をした根拠としてI/Oメモの付属書Ⅳ及び原告が所持していた昭和五八年六月期中のテレックス記録を挙げている。

(五) 廃棄損失の売上原価過大計上分の否認(昭和五九年六月期)について

これは、原告の申告に係る廃棄損失の帳簿記載を否認したものではなく、その記載を前提として、これがCEL社の発注に基づいて原告の調達したものであることから、CEL社の負担すべきものであると判断したものである。したがって、その更正の理由付記において帳簿記載以上に信憑力のある資料の摘示は不要であるが、本件各更正の付記理由においては、右の法的判断をした根拠としてI/Oメモの付属書類を掲げている。

(六) たな卸資産の計上もれ認定(昭和五九年六月期)について

これは、原告が先入先出法によってたな卸資産を評価したが、原告はたな卸資産の評価方法の届出をしていなかったから、法二九条及び法施行令(以下では単に「令」という。)一条によって最終仕入原価法により評価すべきものであると判断したものである。

よって、本件各更正の理由付記は、法一三〇条二項所定のそれとして何ら欠けるところがないものである。

2  本件各更正において認定された所得金額及び翌期に繰り越す欠損金の額について

(一) 昭和五七年六月期

原告の昭和五七年六月期の所得金額及び翌期に繰り越す欠損金の額は、次のとおりである。

(申告額)

〈1〉 所得金額 〇円

〈2〉 翌期繰越欠損金額 一億〇二九七万九六二四円

(加算額)

〈3〉 損金算入が認められない研究開発費 八二二一万五三五七円

(減算額)

〈4〉 繰越欠損金の当期控除額 八二二一万五三五七円

(差引)

〈5〉 所得金額(〈1〉+〈3〉-〈4〉) 〇円

〈6〉 翌期繰越欠損金額 八四四一万七八四二円

(1) 申告額

原告の修正申告に係る所得金額及び翌期に繰り越す欠損金の額である。

(2) 損金算入が認められない研究開発費 八二二一万五三五七円

これは、原告が昭和五七年六月期の総勘定元帳のコード番号七一二(「R+D Supplies」、研究開発費)の勘定項目に計上し、損金の額に算入した費用である(以下「本件研究開発費」という。)が、次のとおり、CEL社の負担すべきものと認められるから、原告の損金の額に算入することができない。

ア 原告は、アメリカ合衆国に事業拠点を有する多国籍企業であるコモドール・グループに所属する。コモドール・グループの中心となっているのは、名目上の本店をタックスヘイブン国であるバハマ国に置くバハマ国法人コモドール・インターナショナル・リミテッド(以下「コモドール・インターナショナル社」という。)である。同社がコモドール・グループを統括しており、CEL社も同グループに属する法人である。原告の株式はすべてCEL社が所有している。

コモドール・グループは、ホームコンピュータ(パソコン)メーカーとして、アメリカ合衆国においてはアップル社及びタンディ社とともに三大メーカーとされ、世界各地に事務所、工場及び販売会社を有する国際企業である。その組織は別表四(コモドール・グループの世界的展開の概要)のとおりである。

原告のコモドール・グループ内における役割は、製品及び部品等の調達機関として、CEL社の指示及び監督に基づき、日本国内の他の企業から半導体及びプリンター等のコンピューター用の製品及び部品等を購入し、CEL社に納入することが主たるもので、そのほかには原告の子会社である株式会社ケントロン(以下「ケントロン」という。)及びその下請け企業によるコンピューター及びその周辺機器の製造に一部関与しているに過ぎず、コモドール・グループにおいて製品の研究開発の分野を担っているものではない。

イ 被告が損金算入を否認した研究開発費は、CEL社の開発計画に基づいてCEL社のために支出される費用であり、その支出の成果として得られるノウハウ等の権利はすべてCEL社に帰属し、原告には何らの権利も帰属しない。したがって、その費用はCEL社の負担すべきものである。

ウ 昭和五九年二月二七日から三月一日までロンドンにおいて開催されたコモドール・グループのコントローラー会議における討議事項を記載したI/Oメモの付属書Ⅵには、コモドールインターナショナル社の機構の一つに研究開発部があり、同部がデザイン、開発計画、ハードウエア及びソフトウエアの開発を担当するものであることが、同付属書Ⅶには、研究開発費は、研究開発に係るグループ覚書に基づきCEL社が負担することが、それぞれ記載されている。I/Oメモは、CEL社の前社長ジャック・トラミエルが退任したことに伴い、コモドール・グループ内における従前からの基本的な運営方針や経理処理手続に関する慣行等を同グループに属する企業において相互に確認する必要から成文化されたものであり、右会議において確認された慣行は、その作成された日付である昭和五九年三月三〇日以前においても同様に行われていたものである。

エ 原告の元経理部長竹田道春が原告のため作成した昭和五九年八月九日付の税務調査問答集と題する書面には、研究開発費はコモドール・グループ全体のための費用であるから、CEL社が負担するものである旨明記されている。

オ CEL社は、原告が調達する製品及び部品等の調達価格並びにCEL社への納入価格について、標準原価なるものを定め、この標準原価と実際の調達価格との差額を購入価額差異として別に管理させることによって、原告の売上利益を固定し、原告が適正な利潤を確保する余地をなくしているから、少なくとも原告が研究開発のためとして支出した費用はCEL社の負担としない限り、原告がその本来得ることができる利益を確保することは不可能となる。したがって、右費用を原告が負担する理由はない。

カ 原告は、昭和五八年六月においては研究開発のため支出された給与、社会保険料、旅費交通費、通勤費、事務用消耗品費、賃借料、器具備品費、雑費などの各種の費用を研究開発費として計上し、これをCEL社に負担させている。このように、昭和五六年から昭和五九年までの各六月期において、原告は、研究開発費の経理処理について、これを原告負担としたりCEL社負担としたりして、一貫した処理をしていない。これは、CEL社がその指揮監督の下に恣意的に原告に費用負担の変更を行わせることによって、我が国における総体としての税負担を減少させようとしたことの一証左であるということができる。

(3) 繰越欠損金の当期控除額 八二二一万五三五七円

これは、当期に繰り返された昭和五一年七月一日から昭和五二年六月三〇日までの事業年度の欠損金額六三六五万三五七五円及び昭和五三年七月一日から昭和五四年六月三〇日までの事業年度の欠損金額中一八五六万一七八二円の合計金額を、法五七条に基づき当期の損金の額に算入したものである。

(4) 所得金額 〇円

これは、申告に係る所得金額に前記(二)の損金算入が認められない研究開発費の金額を加算し、これと同額の当期に繰り越された欠損金の額を当期控除額として減算した後の所得金額である。

(5) 翌期繰越欠損金の額 八四四一万七八四二円

これは、当期に繰り越された昭和五三年七月一日から昭和五四年六月三〇日までの事業年度の欠損金額の残高六九一万六七五八円と、昭和五五年七月一日から昭和五六年六月三〇日までの事業年度の欠損金額七七五〇万一〇八四円との合計金額である。

(二) 昭和五八年六月期

原告の昭和五八年六月期の所得金額及び翌期に繰り越す欠損金額の額は、次のとおりである。

(申告額)

〈1〉 所得金額 マイナス二億三九四七万九九三八円

〈2〉 翌期繰越欠損金の額 八四四一万七八四二円

(加算額)

〈3〉 損金算入が認められない研究開発費 二億七四七四万四三七三円

〈4〉 損金算入が認められない消耗品費 一五二九万〇〇四〇円

〈5〉 寄付金認定額 七億八三〇七万六四五七円

(減算額)

〈6〉 繰越欠損金の当期控除額 八四四一万七八四二円

(差引)

〈7〉 所得金額(〈1〉+〈3〉+〈4〉+〈5〉-〈6〉) 七億四九二一万三〇九〇円

〈8〉 翌期繰越欠損金の額 〇円

(1) 申告額

原告の申告に係る所得金額及び繰り越す欠損金の額である。

(2) 損金算入が認められない研究開発費 二億七四七四万四三七三円

これは、原告が昭和五八年六月期の総勘定元帳のコード番号七一二(「R+D Supplies」研究開発費)の勘定項目に計上し、損金の額に算入した費用である(以下「本件研究開発費」という。)が、前記(一)(2)の理由により、CEL社の負担すべきものと認められるから、原告の損金の額に算入することはできない

(3) 損金算入が認められない消耗品費 一五二九万〇〇四〇円

これは、原告が昭和五八年六月期の総勘定元帳のコード番号七五五(「Furniture/Fixtures」器具部品)の勘定項目に計上し、損金の額に算入した費用である(以下「本件消耗品費」という。)が、研究開発用の器具備品の購入費用であって、その実質は研究開発に係る費用であり、前記(一)(2)の理由により、CEL社の負担すべきものと認められるから、原告の担金の額に算入することはできない。

(4) 寄付金認定額 七億八三〇七万六四五七円

原告は、寄付金で損金に算入しない金額はないものとして所得金額を算出しているが、次のア及びイに掲げる金額は、それぞれ、そこに記載された理由により法三七条の寄付金に該当するものと認められるから、これらを原告の損金に算入することはできない。

ア 広告宣伝費 一億四八五〇万七三五〇円

(ア) これは、原告が損金の額に算入した広告宣伝費一億七一七二万二九五〇円のうち、ホーム社から原告に付け替えられた金額である(以下「本件広告宣伝費」という。)

(イ) ホーム社は、昭和五七年一〇月二五日に設立され、日本国内におけるコモドール製品の総発売元として、製品の販売及び広告宣伝活動を開始した会社である。その設立当時の払込資本金三〇〇〇万円のうち二一〇〇万円を原告が、九〇〇万円を株式会社ムーミン(以下「ムーミン社」という。)が拠出した。

(ウ) 本件広告宣伝費は、ホーム社がコモドール製品の国内販売のために、テレビ、ラジオ、雑誌等によって行った広告宣伝に要した費用であり、同社の昭和五八年六月期における経費の大部分を占めていたものである。

ホーム社は、原告の当時の副社長東海太郎の発案で設立されたものであるが、欠損金を出すことが必至の情勢となった。これについて、東海は原告のコントローラー安威忠男に対し、ホーム社が多額の欠損を出すと原告の社長であるジャック・トラミエルから叱責を受けるので、その欠損金を何らかの方法で原告に補填してほしい旨要請した。そこで、支出の内容を問わず損益が〇円となるようにするため、本件広告宣伝費が原告に付け替えられたものである。

(エ) 以上の通り、本件広告宣伝費は、これに係る広告宣伝に伴う販売利益をホーム社が受けるものであるから、同社が負担するのが当然であり、原告が負担する理由はない。

(オ) 法人税基本通達九-四-一は、「法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受その他の損失の負担をし、又は、当該子会社等に対する債権の放棄をした場合においても、その負担又は放棄をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるため、やむを得ずその負担又は放棄をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その負担又は放棄したことにより生じる損失の額は、寄付金の額に該当しないものとする。」としている。ここにいう相当の理由のある場合とは、子会社の倒産や解散が差し迫っているというような危機的状況が切迫し、その損失を親会社が負担しなければ、親会社の死活にかかわるような経営・信用の危機に陥る切迫したおそれが明らかに存するような場合をいうものと解される。

本件の場合、原告は、ホーム社の整理に際してその超過債務を負担したものではなく、ホーム社が解散したり、その経営権を譲渡したこともないのであって、原告がホーム社の広告宣伝費を負担することについて相当な理由があったとは認められず、右通達を適用する余地は全くない。

(カ) したがって、原告が本件広告宣伝費を負担したことは、原告がホーム社に対しその費用の額に相当する経済的利益を供与したものと見るべきものであるから、右金額は法三七条の寄付金に当たる。

イ 貸付金利息 六億四五一四万六六八八円

原告は、CEL社に対して有する売掛金債権(以下、CEL社との勘定取引に係る帳簿の勘定項目を「CEL勘定」という。)の一部を総勘定元帳のコード番号二九八の勘定項目(BV/Duefrom BV」、以下「BV勘定という。)に計上して経理処理しており、被告は、次の(ア)ないし(エ)の理由から、右金額をCEL社に対する売掛金債権ではなく貸付金債権であり、その利息相当額の経済的利益の移転があったと認め、その利息相当額が法三七条の寄付金に当たると認定した。右利息相当額は、別表五(BV利息計算表)のとおり、BV勘定に計上された前月末の残高に付されるべき利息の金額を計算したものである(以下「BV利息」という。)。その利率は、CEL社から原告に通知されていた利率(昭和五七年七月から同年九月まで八・一二五パーセント、同年一〇月から昭和五九年六月まで八・八七五パーセント)によった。

(ア) 原告は、CEL社の指示に基づき昭和五七年七月以降CEL社に対する売掛金の一部をBV勘定に振り替え記帳し、BV勘定の残高に対し、CEL社から通知された利率によって計算した受取利息の額を総勘定元帳に記載していた。BV勘定は、原告においてコモドール・グループ内での預金と観念され、残高について一か月に一回程度CEL社と原告との間で確認がなされていた。その借方、貸方及び残高の推移は、別表五(BV利息計算表)のとおりである。

(イ) CEL社は、右のような帳簿処理によって、原告に支払うべき買掛金のうち大部分を原告に支払わず、その資金をコモドール・グループのための中央銀行の役割をするオランダ王国法人コモドール・ホールディング・BV(以下「BV社」という。)を通じてコモドール・グループ傘下の各企業に融資し、その融資先からBV社を通じて利息の支払を受けていた。

(ウ) I/Oメモ及びその付属書Ⅳには、コモドール・グループ内の各法人に余剰資金が発生した場合には、同グループのための中央銀行の役割をするBV社に対し、借入金があればこれを返済するものとし、なお余剰があればこれをBV社に預け入れるものとし、その預け入れ金に対しBV社が利息を支払う旨記載されている。

(エ) 以上のことから、BV勘定とは、原告がCEL社から受け取るべき売上代金を自己の判断で運用し、その収益を享受すべきところ、そうせずに、CEL社が原告に代わって、原告のために資金運用を行っていたことを示すものであると認められるから、BV勘定に振り替えられた金額は、原告のCEL社に対する売掛債権ではなく、貸付債権と認められる。したがって、被告は、右貸付債権に対し前記のとおり利息を認定した。

(オ) 原告は、CEL社が原告に対して前払金を支払っていたため、原告はCEL社に対してほぼ常時債務超過の状態にあったと主張する。しかしながら、原告の法人税申告書によれば、原告のCEL社に対する売掛金残高は、昭和五七年六月期末において一九億三九六七万五〇一一円、昭和五八年六月期末において二七五億七〇〇二万七〇二八円、昭和五九年六月期末において一一三億七五一二万五四二九円と記載されているが、同社からの前受金の記載については、昭和五九年六月末において未払金六三九〇円の記載があるもののそれ以外は一切なく、右主張は、この事実と矛盾する。しかも、原告がCEL社から送金があったと主張する額は、売掛債権に対する支払であるとは限らず、CEL社が負担すべき費用の立替金請求債権の支払などが含まれているとも考えられるので、右主張は、CEL社の送金額の内訳を具体的に主張しなければ、意味がない。のみならず、原告は、その主要な仕入先に対しては、二〇日までに納入された製品及び部品等について決済を翌々月の五日に九〇日払いの手形で行っていたが、原告とCEL社との間の支払条件は、「D/A船荷証券日付後九〇日以内」であり、しかも、実際の入金方法は、原告において仕入代金の決済及び会社運営費など日々の必要資金を検討し、その必要資金額についてCEL社から売掛金の入金をするというものであったから、原告には、十分な期間的な余剰資金が生じていたと認められるのである。

(カ) 原告は、CEL社に対する売掛金代金の支払は船荷証券日付から九〇日後に弁済期が到来するものであるから、その売掛金残高には弁済期末到来のものがあると主張する。しかしながら、原告とCEL社との間の会社間整理記帳が同グループ内の決済原則であるクリーンアップ方式であるとすれば、原告がBV勘定に振り替えたCEL社に対する売掛債権は、すでに支払期限が到来していたものである。そうでないとしても、原告の右売掛金残高のうち一部をBV勘定に振り替えたことにより、原告とCEL社との間においてその振替に相当する金額の決済が行われ、右両者の間においてをそれを貸付金にする旨の合意、すなわち、準消費貸借契約の締結がされたというべきものであり、これは、弁済期未到来の債権についても可能である。

(キ) 原告は、右計上していたBV勘定の受取利息を、昭和五八年六月期に帳簿上一切消滅させた。しかし、その期以降もCEL社からの指示文書にはBV勘定の残高が存在し、原告が昭和五九年六月期の決算を組む際に、米国監査法人アーサーアンダーソンから、BV勘定に一〇〇億円が計上されていることによる利息収入に対する課税が危惧されるとの指摘を受けてもいる。右受取利息の取消は、原告に利息を支払うこととなると、コモドール・グループ全体として、我が国における租税負担が増加することとなるので、これを防ぐため、原告の帳簿上これがなかったかのごとく操作したものである。

ウ 原告が貸付利息の額を益金の額に算入する経理処理をしていないとしても、法人が金銭を無利息の約定で他に貸し付けており、その無利息であることに合理的な理由がない場合においては、当該貸付がなされている間は、その当事者間において通常ありうべき利率による利息相当額の経済的利益が貸主から借主に移転しているものということができる。右経済的利益の移転は、通常の利息で貸し付けたうえ、その利息を相手方に贈与したのと同一の経済的機能ないし効果を有するので、貸主については、借主にこの利息相当の金額を無償で供与したものとして、それ相当の金額を法三七条六項の寄付金に当たるものと認めるべきこととなる。本件において被告が認定したBV勘定の残高に付すべき利息は、前記のとおり、CEL社から原告に通知されたBV勘定の残高と利率をもとに合理的に算出したもので、原告の通常収受すべき利息であるから、右利息相当の金額はCEL社に対する寄付金に当たる。

エ 法三七条の規定によって計算した寄付金の損金不算入額は、次のとおり七億八三〇七万六四五七円となる。

(寄付金の額)

〈1〉 申告額 〇円

〈2〉 更正による金額 七億九三六五万四〇二八円

〈3〉 合計額(〈1〉+〈2〉) 七億九三六五万四〇三八円

(所得金額仮計)

〈4〉 申告書別表四の20〈1〉の金額 マイナス二億四一四八万一九二一円

〈5〉 更正による増額 二億九〇〇三万四四一三円

〈6〉 寄付金支出前所得金額(〈3〉+〈4〉+〈5〉) 八億四二二〇万六五三〇円

〈7〉 〈6〉×2・5÷100 二一〇五万五一六三円

〈8〉 期末資本金等の金額 四〇〇〇万円

〈9〉 〈8〉×2・5÷1000 一〇万円

〈10〉 損金算入限度額 一〇五七万七五八一円

〈11〉 差引損金不算入額(〈3〉-〈10〉) 七億八三〇七万六四五七円

(5) 繰越欠損金の当期控除額 八四四一万七八四二円

これは、当期に繰り越された昭和五三年七月一日から昭和五四年六月三〇日までの事業年度の欠損金額の残高六九一万六七五八円と、昭和五五年七月一日から昭和五六年六月三〇日までの事業年度の欠損金額七七五〇万一〇八四円との合計額を、法五七条に基づき当期の損金の額に算入したものである。

(三) 昭和五九年六月期

原告の昭和五九年六月期の所得金額は、次のとおりである。

(申告額)

〈1〉 所得金額 四億五五八五万五〇六〇円

(加算額)

〈2〉 売上原価過大計上否認分 一億二四三六万六七三五円

〈3〉 たな卸計上もれ 二億〇三二四万三〇〇二円

〈4〉 損金算入が認められない消耗品費 一億一一二二万六九八〇円

〈5〉 寄付金認定額 一七億八二六〇万六九九八円

〈6〉 損金算入が認められない繰越欠損金 三億四二四五万九五六二円

(減算額)

〈7〉 事業税認定損 八九五九万〇五六〇円

(差引)

〈8〉 所得金額(〈1〉+〈2〉+〈3〉+〈4〉+〈5〉+〈6〉-〈7〉)二九億三〇一六万七七七七円

(1) 申告額

原告の申告に係る所得金額である。

(2) 廃棄損失の売上原価過大計上否認分 一億二四三六万六七三五円

これは、原告が岡葉流通倉庫に保管していた電子部品等を昭和五九年九月二六日に廃棄し、その金額を昭和五九年六月期に係る廃棄損失(以下「本件廃棄損失」という。)の額として売上原価に計上した金額であるが、次のア及びイの理由により、右金額を原告の損金の額に算入することはできない。

ア 原告はコモドール・グループ内における製品及び部品等の調達機関であって、原告が日本の国内メーカー等から部品及び製品等を調達するのは、すべてCEL社の指示ないし了解に基づくものであり、その指示ないし了解を受けずに原告が自己の判断でその購入をしたことはない。デッドストック等になった部品等の廃棄処分も、原告が独断で行うものではなく、すべてのCEL社の指示に基づいて行う。I/Oメモの付属書Ⅶにも、廃棄相当となった過剰原材料等の費用はCEL社が負担する旨記載されている。したがって、CEL社の指示ないし了解に基づいて調達された部分及び製品等を、デッドストックになったこと等により廃棄したとしても、その責任はCEL社にあり、その廃棄損失を原告が負担すべきいわれはない。

イ 仮に、これが原告の負担すべきものであったとしても、本件廃棄損失に係る岡葉流通倉庫に保管していた部品等の実際の廃棄時期は、昭和五九年六月期の期末から約三か月後の同年九月二六日のことであるから、これを原告の昭和五九年六月期の損金に計上することはできない。

ウ なお、昭和五九年六月期更正の理由付記には、右廃棄損失のされた日は記載されているが、事業年度の異なることを否認の理由としては掲げていない。しかし、右損失は昭和五九年七月一日から昭和六〇年六月三〇日までの事業年度(以下「昭和六〇年六月期」という。)に当然計上すべきもので、原告はそのような会計処理をしなかったことによって不利益を被ったにすぎない。しかも、この廃棄損失は、売上原価として損金に算入されないものであるという点においては、付記理由と基本的な課税要件事実は同一であるから、その否認により原告の手続的権利が侵害されるというものではなく、原告の訴訟上の防御活動に実質的不利益を与えることにはならない。

(3) たな卸資産の計上もれ 二億〇三二四万三〇〇二円

ア 原告は、たな卸資産の期末評価額として、その最終仕入原価法による評価額である九九九億一七五七万四一二二円ではなく、その先入先出法による評価額である九九七億一四三三万一一二〇円を計上している。

イ しかしながら、原告は、たな卸資産の評価方法の選定に係る届出書を所轄税務署長に提出していないから、最終仕入原価法によって評価すべきこととなる(法二九条、令三一条)。そうすると、最終仕入原価法による評価額と先入先出による評価額との開差額である二億〇三二四万三〇〇二円は益金に算入すべきである(以下「本件たな卸計上もれ」という。)。

(4) 損金算入が認められない消耗品費 一億一一二二万六九八〇円

これは、原告が総勘定元帳のコード番号六一二(「Supplies」消耗品)の勘定項目に計上し、損金の額に算入した費用である。右のコード番号六一二の勘定項目は、同年四月にコード番号七一二(「R+D Supplies」研究開発費)の勘定項目に計上されていた九五七七万六〇四八円を振り替えて記帳が始められたものである。

右は、研究開発用の器具備品購入費用であって、その実質は研究開発に係る費用であり、前記(一)(3)の理由により、CEL社の負担すべきものと認められるから、原告の損金の額に算入することができない。

(5) 寄付金認定額 一七億八二六〇万六九九八円

ア 原告は、CEL社に対して有する売掛金債権の一部を総勘定元帳のBV勘定に計上して経理処理しており、被告は、前記(二)(4)イ(ア)ないし(エ)の理由により、右金額を貸付債権であり、その利息相当額を法三七条の寄付金に当たるものと認めた。右利息相当額は、別表五(BV利息計算表)のとおり、前月末の残高に付されるべき利息の金額を計算したものである。その利率は、CEL社から原告に通知されていた利率(昭和五七年七月から同年九月まで八・一二五パーセント、同年一〇月から昭和五九年六月まで八・八七五パーセント)によった。

イ 右の寄付金認定額につき法三七条の規定によって計算した寄付金の損金不算入額は、次のとおり一七億八二六〇万六九九八円となる。

(寄付金の額)

〈1〉 申告額 〇円

〈2〉 更正による金額 一七億八二六〇万六九九八円

〈3〉 合計額(〈1〉+〈2〉) 一七億八二六〇万六九九八円

(所得金額仮計)

〈4〉 申告書別表四の20〈1〉の金額 七億九七四四万四六九三円

〈5〉 更正による増額 三億四九二四万六一五七円

〈6〉 寄付金支出前所得金額(〈3〉+〈4〉+〈5〉) 二九億六六四二万八二〇〇円

〈7〉 〈6〉×2・5÷100 七四一六万〇七〇五円

〈8〉 期末資本金等の金額 四〇〇〇万円

〈9〉 〈8〉×2・5÷1000 一〇万円

〈10〉 損金算入限度額 三七一三万〇三五二円

〈11〉 差引損金不算入額(〈3〉-〈10〉) 一七億八二六〇万六九九八円

(6) 損金算入が認められない繰越欠損金 三億四二四五万九五六二円

原告は、当期の確定申告に当たり、右金額を繰越欠損金として所得金額から控除しているが、昭和五七年六月期及び昭和五八年六月期に係る更正の結果、当期において控除できる繰越欠損の額は〇円となっている。

そうすると、右三億四二四五万九五六二円を損金の額に算入することはできない。

(7) 事業税認定損 八九五九万〇五六〇円

これは、昭和五八年六月期に係る更正により原告が納付することとなる事業税の金額である。この金額は、昭和五九年六月期の所得金額から減額すべきである。

3  本件各更正の適法性について

以上のとおり、原告の昭和五七年ないし昭和五九年の各六月期の所得金額は、本件各更正における額と同額であるから、本件各更正は適法である。

4  本件各賦課決定の適法性について

(一) 昭和五八年六月期について

昭和五八年六月期に係る過少申告加算税の額は、昭和五九年法律五号による改正後の国税通則法六五条一項、一一八条三項及び一一九条四項により、更正の結果原告がさらに納付すべきこととなった法人税額中一万円未満の端数を切捨てた三億一一七〇万円に一〇〇分の五を乗じ、かつ、一〇〇円未満の端数を切捨てて算出した一五五八万五〇〇〇円となって、昭和五八年六月期賦課決定における額と同額である。

(二) 昭和五九年六月期について

昭和五九年六月期に係る過少申告加算税の額は、昭和五九年法律五号による改正後の国税通則法六五条二項、一一八条三項及び一一九条四項並びに昭和六二年法律第九六号による改正前の国税通則法六五条一項により、更正により原告が更に納付すべきこととなった法人税額中一万円未満の端数を切捨てた一〇億七一三七万円に一〇〇分の五を乗じて計算した五三五六万八五〇〇円と、右一〇億七一三七万円のうち期限内申告額を超える部分八億七四九六万円に一〇〇分の五を乗じて計算した四三七四万八〇〇〇円との合計額九三七一万六五〇〇円となって、昭和五九年六月期賦課決定における額と同額である。

(三) よって、本件各賦課決定は適法である

四  抗弁に対する原告の否認及び反論

1  抗弁1(本件各更正の理由付記)について

(一) 研究開発費の否認(昭和五七年六月期及び昭和五八年六月期)について

抗弁1(一)のうち、昭和五七年六月期更正及び昭和五八年六月期更正の付記理由に原告が所持していたI/Oメモの付属書Ⅶが掲げられていたことは認めるが、その余は争う。

「帳簿の記載」は、単に記入した金額だけではなく、その金額がいかなる事実に基づいて支出されたかという点についての記載、すなわち勘定項目の記載についても効力を有するものである。右の各更正は、原告の申告に係る帳簿記載上研究開発費と記載されているものについて、少なくとも当該支出の負担者が原告であるという事実に係る帳簿書類の記載自体を否認するものであるから、帳簿否認による更正に当たるというべきである。

I/Oメモは右の研究開発費が計上された事業年度よりも後の日付のものであるが、その付属書Ⅶが確認的なものであることについての根拠は示されていないし、被告が指摘する条項が引用する契約書(被告は覚書とするが)も示されていない。

仮に、本件が帳簿否認に当たらないとしても、本件理由付記によっては、〈1〉原告が商社的機能のみを有するという点、〈2〉原告の収益額によれば何故に試験研究、開発に係る費用を原告が負担するほどの利益が確保されていないのかという点、〈3〉研究開発による成果としてのノウハウ等がすべてCEL社に帰属するとの点について、被告の判断過程を示していない。

(二) 消耗品費の否認(昭和五八年六月期及び昭和五九年六月期)について

同(二)は争う。

昭和五八年六月期更正及び昭和五九年六月期更正は、原告の帳簿に記載された本件消耗品費について、これがCEL社の負担すべき研究開発費であると認定し、この費用の負担者及びそれが消耗品費用の支払目的で支出されたかという事実に係る帳簿の記載自体を否認しているのであるから、帳簿否認による更正に当たり、いずれも更正をした根拠として帳簿記載以上に信憑力のある資料の摘示がない以上は、更正の理由付記に不備があるというべきである。

その他の理由については(一)と同様である。

(三) 広告宣伝費の寄付金認定(昭和五八年六月期)について

同(三)は争う。

本件広告宣伝費に係る原告の帳簿の記載は、本件広告宣伝費の金額がいくらであるかという点に限らず、係る支出が広告宣伝費として支出されたという事実、さらには係る広告宣伝費の負担者が原告であるという事実を含むものである。これらの諸点は、いずれも本件広告宣伝費の税法上の法的評価の問題ではなく、その評価を基礎付ける事実そのものである。

ところが、本件広告宣伝費に係る昭和五八年六月期更正は、その負担者が原告であるという事実を否定しているものであるから、帳簿否認による更正に当たるというべきであるのに、帳簿記載以上に信憑力のある資料及び根拠を何ら摘示しておらず、更正の理由付記に不備があるといわざるを得ない。

仮に、本件広告宣伝費に係る更正が帳簿否認によるものではないとしても、当該支出の負担者が原告であるとの判断に至った過程が不明であるし、そのことと本件広告宣伝費が寄付金に該当するということとの関係が不明である。単に「合理的理由がない。」というだけでは、具体的な理由の明示があるとはいえない。

(四) 貸付利息の寄付金認定(昭和五八年六月期及び昭和五九年六月期)について

同(四)のうち、昭和五七年六月期更正及び昭和五八年六月期更正の付記理由にI/Oメモの付属書Ⅳ及び昭和五八年期に係るテレックス記録が掲げられていることは認めるが、その余は争う。被告は、原告の帳簿書類に記載のない受取利息を認定したもの(一旦記帳されたことはあるが、期中に取消しており、その修正を前提とすべきである。)であるから、その更正は帳簿否認によるものに当たる。しかし、被告は右更正において何ら具体的な資料を摘示していない。被告の引用するI/Oメモの付属書Ⅳは原告には適用する余地のないものであるし、被告が主張する昭和五八年六月期に係るテレックス記録についても特定がされていない。

(五) 廃棄損失の売上原価過大計上分の否認(昭和五九年六月期)について

同(五)のうち、昭和五九年六月期更正の付記理由にI/Oメモの付属書Ⅶが掲げられていることは認めるが、その余は争う。I/Oメモの付属書類は資料の名に値しない。

原告の帳簿の記載には、本件廃棄損失に係る廃棄相当品を原告が自らの決定に基づいて廃棄したという事実、したがって、右の廃棄処分による損失の負担も原告に帰属するという事実が含まれている。本件廃棄損失に係る更正は、右の事実に係る帳簿の記載自体を否認しているものであるのに、更正の理由付記中には帳簿記載以上に信憑力のある資料を何ら摘示していない。

(六) たな卸資産の計上もれ認定(昭和五九年六月期)について

同(六)のうち、原告がたな卸資産の評価方法を届け出ていなかったことは認めるが、その余は争う。

昭和五九年六月期更正の理由付記中には、否認理由として、原告の届け出たたな卸資産の評価方法が最終仕入原価法であることを指摘するが、実際には届出はなかったのであるから、付記理由になっていない。

2  抗弁2(所得金額等)について

(一) 昭和五七年六月期

(1) 抗弁2の(一)(1)は認める。

(2) 研究開発費について

同(2)の事実中、被告が否認するものが、原告において昭和五七年六月期総勘定元帳のコード番号七一二(「R+D Supplies」研究開発費)の勘定項目に計上し、損金の額に算入したものであることは認める。

同アの事実中、コモドール・インターナショナル社の本社が名目上バハマ国に置かれていること及びコモドール・グループにおける原告の役割に関する主張は否認し、その余は認める。

同イは争う。

同ウの事実中、I/Oメモの作成の経緯及び付属書の存在についての主張は否認し、その余は認める。

同エは認める。

同オの事実中、CEL社において、原告が調達する製品及び部品等の調達価格並びにCEL社への納入価格について、「標準原価」(以下「CEL単価」という。)を定め、この標準原価と実際の調達価格との差額を「購入価額差異」(purchess price variance)として別に管理していることは認めるが、その余は争う。

同カの事実中、原告が昭和五八年六月期においては研究開発に伴う給与や社会保険料、旅費交通費、通勤費、事務用消耗品費、賃借料、器具備品費、雑費などの各種の費用を研究開発費の内容として計上したが、これをCEL社に負担させていること、昭和五九年六月期において、原告負担の研究開発費の計上がなく、これはCEL負担の処理をしたことは認めるが、その余は争う。

(3) 繰越欠損金の当期控除額について

同(3)の事実は認める。

(4) 所得金額について

同(4)は争う。

(5) 翌期繰越欠損金について

同(5)は争う。

(二) 昭和五八年六月期

(1) 抗弁2の(二)(1)は認める。

(2) 研究開発費について

同(2)の事実中、被告の否認するものが、原告において昭和五八年六月期総勘定元帳のコード番号七一二(「R+D Supplies」研究開発費)の勘定項目に計上し、損金の額に算入したものであることは認める。

(3) 消耗品費について

同(3)の事実中、被告が否認するものが、原告において昭和五八年六月期総勘定元帳のコード番号七五五(「Furniture/Fixtures」器具備品)の勘定項目に計上していたものであることは認める。

(4) 寄付金認定額について

同(四)の冒頭部分の事実中、原告が寄付金の損金不算入額はないものとして所得金額を算出していることは認めるが、その余は争う。

ア 広告宣伝費について

同4アの事実中、(ア)及び(イ)は認めるが、その余は否認し、主張は争う。

本件広告宣伝費を再び原告に振替えた時期は、既に赤字によって立ち行かなくなったホーム社がその事業を廃止した後のことである。

イ 貸付金利息(BV利息)について

同(4)イの冒頭記載の事実中、原告がCEL社に対して有する売掛金債権の一部をその主張の勘定項目に計上して経理処理したことのあることは認め、その余は否認し、同(ア)の事実中、原告がCEL社の指示に基づき昭和五七年七月以降CEL社に対する売掛金の一部をBV勘定に振り替えて記帳し、その残高に対し、CEL社から通知された利率によって計算した受取利息の額を総勘定元帳に記載していたことのあること、昭和五七年六月末日、同年九月末日及び同年一二月末日の三回について次の四半期の末に記帳すべき利率の通知のあったことは認め、その余は否認し、同(イ)の事実は否認する。原告は、BV勘定に資金を移転したことはなく、それへの記載は帳簿上のものにしか過ぎない。同(ウ)の事実中、I/Oメモ付属書Ⅳに、BV社のコモドール・グループの中央銀行としての現金受託機能に関し、余剰現金のBV社への預託について述べられていることは認めるが、それは余剰現金に関するものであって、余剰資金に関するものではない。同(エ)は否認し、同(オ)中原告がその主要な仕入先に対する支払いを九〇日払いの約束手形で行っていたこと、原告とCEL社との間の支払条件は、「D/A船荷証券日付後九〇日以内支払承諾後書類引渡条件」であったが、実際の入金方法は、原告において自己の運転資金に不足を来さないようCEL社に要請して代金の前払いを受けていたことを認め、その余は否認する。同(カ)の事実は否認する。BV勘定は貸付勘定ではなく、関係会社間勘定であるから、CEL勘定からBV勘定への振替えをもって貸付金への更改とみなすのは無理である。同(キ)の事実中、BV勘定に、いわば元本部分に当たる残高が二〇六億七三二三万三六二一円から一〇億円に減額されたまま昭和五九年六月期の総勘定元帳に残留していたことは認め、米国監査法人の指摘は知らない。その余は否認する。

ウ 同4ウ及びエは争う。

(5) 繰越欠損金の当期控除額について

同(5)は争う。

(三) 昭和五九年六月期

(1) 抗弁2の(三)(1)は認める。

(2) 廃棄損失の売上原価過大計上否認分について

同(2)の頭書部分中、原告が岡葉流通倉庫に保管していた電子部品等を廃棄し、その金額を昭和五九年六月期に係る廃棄損失として損金の額に算入し、売上原価に計上したことは認めるが、その余は争う。

右の部品等は、下請工場の生産ライン上で発生した不良品や規格不適合品(五六六八万三六五五円)及び原告の見込み生産の結果生じた死蔵品(六七六八万三〇八〇円)から成るものであるが、いずれも原告に起因し、CEL社の責に帰すべきものではない。

ア 同(2)アは争う。

原告が納入していた製品の多くはCEL社の発注に基づくものであったが、一部見込み生産のものもあり、その購入すべてについて原告がCEL社の指示ないし了解を得ていたという事実は存しない。I/Oメモの付属書ⅦにおいてCEL社が負担すると記載されているのは、CEL社の責に帰すべき事由によって過剰になった原材料に限られている。子会社が重要な業務上の決定につき親会社の指示を受けることは当然のことであるから、これらの廃棄について原告がCEL社の承認ないし了解を得ていたとしても、本件廃棄損失の否認理由にはならない。

イ 同(2)イは争う。

被告は、本件廃棄損失を原告が負担すべきものとしても、その実際に廃棄されたのは、事業年度終了の日から三ヶ月後であるから、これを当期の損金には算入できないと主張するが、被告はこのような主張を更正の理由に全く示しておらず、かつ、このような理由は昭和五九年六月期の更正の理由とは両立しないものであって、このような主張は許されない。被告の否認理由がこのようなものであるなら、原告は、当然翌年度に廃棄損を計上することができたが、被告はその負担者がCEL社であるといっているためその計上もできないこととなっているのである。

ウ 同(2)ウは争う。

(3) たな卸資産計上もれについて

ア 同(3)アは認める。

イ 同イのうち、原告において、たな卸資産の評価方法の選定に係る届出書を所轄税務署長に提出していないこと、そうすると、そのよるべき評価方法は最終仕入原価法となることは認めるが、その余は争う。

(4) 消耗品費について

同(4)の事実中、被告の否認するものが、原告において昭和五九年六月期分総勘定元帳のコード番号六一二(「Supplies」消耗品費)の勘定項目に計上していたものであることなど、右のコード番号六一二が同年四月にコード番号七一二に計上されていた九五七七万六〇四八円を振り替えて記帳が始められたものであることは認めるが、その余は昭和五八年六月期の消耗品費に係る前記(一)(2)のとおりである。

(5) 寄付金認定額(BV利息)について

同(5)アないしウは争う。昭和五八年6月期のBV利息に係る前記(二)(4)イのとおりである。

(6) 損金算入が認められない繰越欠損金について

同(6)は争う。

(7) 事業税認定損について

同(7)は争う。

3  抗弁3及び4(本件各更正及び本件各賦課決定の適法性)について

同3及び4は争う。

五  原告の主張

1  研究開発費(昭和五七年六月期及び昭和五八年六月期)及び消耗品費(昭和五八年六月期及び昭和五九年六月期)について

(一) 原告には、例えば昭和五八年六月末当時において、管理部、営業部、資材部のほか、品質管理部(受入検査課、製品管理課)及び製造部(生産技術課、生産管理課、開発設計一課、同二課、ソフトウエア課、ドキュメントセンター課)があり、当時の研究開発費として計上されたものは、品質管理部並びに製造部の生産技術課、開発設計一課、同二課及びソフトウエア課の消耗品及び消耗工具備品の費用であった。

原告は、CEL社等に納入する製品等を下請業者に製造させていたが、CEL社から送付された基本設計、基本仕様等に基づく製品の量産のため自ら製品設計をして製造仕様を作成し、その仕様に従った製造を下請業者に委託し、その製造について技術的援助や監督をしてきた。このような活動は原告の正当な業務であり、否認されるいわれはない。当時原告において右業務に従事させるため、生産技術課に六名、開発設計一課に一七名、同二課に八名、ソフトウエア課に六名の技術者が在籍していた。

原告の賃借対照表には、巨額の仕掛品評価額(昭和五七年六月期一六億一一〇四万三九六四円、昭和五八年六月期一六八億一六九三万二一九七円、昭和五九年六月期四三億六九四二万〇九七一円)、機械器具評価額(昭和五七年六月期二億二九六八万〇二九五円)、機械装置(昭和五八年六月期一五二八万〇八一二円)及び工具器具備品(昭和五九年六月期九四八〇万四四一七円)が計上されており、これらのことは、原告が下請業者に原材料のほか治工具等を無償提供して工賃払いで製造させており、原告が製造に関与していたことを示している。

(二) 否認された昭和五七年六月期の研究開発費は、製品開発及びその製造のための金型代、LSI用のマスク代、一般印刷物版下代プリント基板版下代、試作用部品、治具、工具、器具備品その他の消耗品の費用からなる。昭和五八年六月期については前事業年度に研究費用として扱われていたのと同様の費用が、研究開発費と消耗品費に振り分けられた。その消耗品費は、製造部ないし品質管理部が消費した工具等で、その大半は、製品テスト用に下請業者に無償で貸与した生産ラインに設置するモニターとカラーテレビである。昭和五九年六月期からは研究開発費の計上はないが、これは、この期から原告は、コモドール・グループのための研究開発の一部を行うようになったことによる。すなわち、従来コモドール・グループの米国における研究開発は、カリフォルニア州サンタクララにあったCEL社の子会社コモドール・ビジネスマシーン・インコーポレイテッド(以下「コモドール・ビジネスマシン社」という。)の工場研究所において行われていたが、製品に不良品が発生し、その技術改良が急がれていたところ、原告が昭和五七年九月ケントロン株式会社を買収し、原告は技術者総勢約三〇名を擁することとなったことから、昭和五八年三月以降コモドール・ビジネスマシン社の工場研究所がペンシルバニア州に移転するのに伴い、その研究開発、技術開発の機能が一部原告に移転することになったものである。

その主要な内容は、設計図面を管理するドキュメントセンターと米国から送られてくる基本仕様に基づく量産設計、生産技術、品質管理及び品質保証面での設計である。このように、移管された研究開発等の効果はグループ全体に及ぶから、その費用を原告のみが負担するのは相当でない。そこで、そのような費用はCEL社に請求し、負担してもらうこととなったものである。基本的な研究開発に該当しない費用は消耗品として計上されたが、被告によって否認された。

(三) I/Oメモの付属書Ⅵは、コモドール・グループに属する諸会社の部門を、「販売、保管及び引渡」、「管理」及び「研究及び開発」のカテゴリーに合わせて分類し、その部門の費用をいずれかに分類するかを示したものであって、コモドール・インターナショナル社の機構を示すものではない。また、同附属書Ⅶには、「研究開発費は、現存する研究開発契約の条項にしたがってCEL社が吸収する。」旨が記載されているに過ぎないのであって、CEL社と原告との間には右研究開発契約は当時存在していなかったのである。

(四) 親会社が基本的な開発計画を作成し、これに基づいて子会社に何らかの指示をするのは当然のことであり、そうであるからといって、親会社が子会社の研究開発費を負担すべきことになるものではない。

(五) 被告は、原告に適正な利益が確保される構造となっていないというが、原告の売上利益率が低いかどうかは同業他社と比較して始めていえることである。そして、原告と類似の業種で、同様な状況に有る他社と比較しても、原告の利益率は決して低くない。

2  広告宣伝費の寄付金認定(昭和五八年六月期)について

(一) 原告は、株式会社ムーミンと共にホーム社を設立し、コモドール六四、VIC一〇一及びマックスマシーンの販売及び広告宣伝を開始したが、業績不振で、巨額の債務を背負いその将来に見込みもないことが判明した。そこで昭和五八年四月には、ホーム社の事業活動を停止し、その清算をすることとした。ホーム社は債務超過の状態にあり、その処理が問題となったが、ホーム社の宣伝広告は原告の製品のそれであって、原告はホーム社と共同して広告宣伝を行ったという認識があり、また、その広告宣伝により利益を受けてもおり、原告はホーム社の親会社として同社に債権を有する第三者に迷惑を掛ける訳にもいかず、その社会的責任を果たすため止むを得ずホーム社の資産をもって支払えない部分について原告が負担するとしたものである。

(二) 本件広告宣伝費は、ホーム社の一般的な広告宣伝の費用ではなく、主としてマックスマシーンという特定の製品の販売に係る企画広告の費用であった。このマックスマシーンの広告宣伝の企画及び外部への嘱託は、ホーム社ではなく、すべて原告が行ったものである。したがって、原告が本件広告宣伝費を負担することは当然のことである。これをホーム社の負担とする経理をしたのは、ホーム社が当初予期したような成功を納めることができれば、その利益に見合う応分の広告宣伝費を負担すべきであるという考えによるものである。そこで、原告は、昭和五八年三月末までに一旦は自己の広告宣伝費勘定に計上した金額合計一億九二〇七万二一九八円をホーム社に振替えたが、前記の事情から昭和五八年三月末に合計一億四八五〇万七三五〇円を原告の広告宣伝費として再度振り替えた。

(三) 本件広告宣伝費を再び振替えて原告が負担したことには相当の理由があり、この負担分を原告の損金に算入したことは、法人税基本通達九-四-一によって認められる正当な会計処理である。

3  貸付利息の寄付金認定(昭和五八年六月期及び昭和五九年六月期)について

(一) 原告が、そのCEL社に対する売掛金の一部をBV勘定に記帳したことはあるが、これは、原告とCEL社又は原告とBV社との間の経済的取引を反映するものではなかった。すなわち、BV勘定は基本的にはコモドール・インターナショナル社がコモドール・グループの販売会社の財務上の管理のために考えたクリーンアップ制度に基づくもので、その制度の目的は、コモドール・グループ内においては、各会社、各部門相互間の勘定が多いので、複雑に関連する関係会社間取引勘定をBV社に集中して単純化することにより、会計処理手続の事務量の増加を抑制すると共に、連結財務諸表その他の計算書類の作成を容易にし、かつ、子会社である各国の販売会社からCEL社に対する代金の支払いが滞りがちであったことから、その早期の支払を利息を付すことによって間接的に強制することにあった。したがって、これを販売会社ではない原告に適用することは意図されていなかった。原告が右勘定への記帳をもってCEL社に対して経済的利益を供与したとの被告の主張については何ら立証がない。

(二) 原告の帳簿への一番最初の記帳は、コモドール・インターナショナル社のダイアナ・モイから原告に対する昭和五七年九月二三日付けファクシミリによるクリーンアップ指示に基づいて始まったものであるが、ダイアナ・モイは、コモドール・インターナショナル社の下級職員であって、他に指示を与えるような地位にはなく、クリーンアップが原告に適用されるものではないことを見過ごして事務的に処理をしたものにすぎない。昭和五八年六月九日CEL社のアジア地域経理担当者サム・チンがBV勘定の利息記帳の誤りを指摘したことから、計算をし直した結果一旦は逆にBV社に対する支払利息が原告に記帳されたが昭和五九年度の決算期が到来する前に取り消され、昭和五九年度においては初めからBV勘定に利息の記載をしていない。右の取り消された利息以外の、いわばその元本部分に当たる残高も、昭和五七年度末においては一五五億一九三四万一〇九六円、昭和五八年度末においては二〇六億七三二三万三六二一円から一〇〇億円に減額されていた。その後検討の結果BV勘定を総勘定元帳に残留させておくことは妥当でないとの判断で全面的に抹消されるところとなり、この残高一〇〇億円は次の昭和六〇年度の期首においてCEL勘定に戻され消滅している。利息記帳取消後もBV勘定が残されていたのは、これらの勘定は、連結財務諸表では消去されて現れない勘定項目であるうえ、いずれもCEL社に対する原告の売掛金から発生したものであって、その残高が原告とCEL社との間の販売条件の範囲内に止まるものである限りBV勘定があっても会計上何ら影響がなく、原告としては、いずれの勘定も関係会社間勘定として同様のものとみていたことによるものである。原告がこのように認識していたことは、原告の昭和五八年度の賃借対照表に「関係会社売掛金」として計上した金額二七五億七〇〇二万七〇二八円が、CEL(バーゼル)勘定六〇億七二三四万〇二五五円、CEL(香港)勘定五九億一八〇四万一一九七円、ホームコンピューター勘定六〇三〇万四四八〇円及びBV勘定一五五億一九三四万一〇九六円の合計であること、昭和五八年度の賃借対照表に「売掛金」として計上した金額一一三億八〇三四万六〇三七円が、CEL勘定一三億七五一二万五四二九円とBV勘定一〇〇億円及び取引売掛金勘定五二二万〇六〇八円の合計であること並びに昭和五九年度の賃借対照表の付表である「売掛金(未収金)の内訳書」にCEL社に対する売掛金として計上した一一三億七五一二万五四二九円が右のCEL勘定一三億七五一二万五四二九円及びBV勘定一〇〇億円の合計であることに示されている。

(三) CEL勘定における原告の売掛金は、BV勘定に振り替えられた分を含め、支払期限より前にCEL社が代金を直接原告の銀行口座に送金することによって支払われていたので、その残高はいずれも期限未到来のものであり、残高について利息の発生する余地のないものであった。被告は、原告の貸借対照表に前受金の記載がないというが、帳簿上は売掛金が発生したときに記帳されるため、それが期限未到来であるかどうかが分からないというに過ぎない。被告は、原告に期間的な余剰資金が生じていたというが、それは机上の空論である。現実には、原告の支払資金が不足するためCEL社に九〇日の支払期限よりも早期の支払を求めていたのであり、余剰資金はなかったのである。

(四) 被告は、原告とCEL社との間において、売掛債権を貸付金とする準消費貸借契約の合意がされた旨の主張をするが、BV勘定は関係会社勘定であって貸付金勘定ではないから、それへの振替記帳をもって準消費貸借とみるのは無理である。仮に振替後利息記帳をしたことをもって貸付金への更改とするのであれば、利息記帳を自発的に取り消したことが考慮されていない。また、BV社はCEL社とは別法人であるから、BV勘定への振替をもってBV社ではなく、CEL社への貸付とみることはできないはずである。被告は、認定した貸付金利息を二年間にわたり年八・一二五%として適用しているが、その主張のダイアナ・モイによる昭和五七年九月二九日付通知の利率は昭和五八年度の第一・四半期に限定されたものであり、同人による次の第二・四半期に限定された利率八・八七五%の通知を無視している。被告がこの最初の通知に係る利率を二年間を通じて適用したことには、何ら合理性がない。

(五) I/Oメモ附属書Ⅳは、CEL社に対し買掛金を有する販売会社の場合のみを述べているものであって、これが原告に適用される余地はない。また、同書には、BV社の中央銀行としての現金受託機能につき、余剰現金をBV社へ預託することが述べられているが、原告には余剰現金はなかったので、これを原告に適用する余地もない。

(六) BV勘定の残高の推移は、別表五(BV利息計算表)中の原告主張額欄記載のとおりである。最初の記帳は、昭和五七年一一月の借方丁数一一-九一に記載された二〇億一一四七万二五一五円である(乙第二一号証)。

原告はBV利息の計上を昭和五八年六月期の決算期が到来する前に取り消しており、昭和五九年六月期においては初めから記帳をしていないから、そもそも利息の発生する余地がない。

また、BV勘定の残高も、昭和五八年六月期末に一五五億一九三四万一〇九六円に減額され、昭和五九年四月二九日当時の残高も二〇六億七三二三万三六二一円から一〇〇億円に減額された。CEL社バーゼル事務所のドラ・ゼーバチェルは、昭和五九年五月七日付で、原告の安威忠男らに対し、トム・マトソンの指示に基づくものとして、原告に対する固定した受領残高を一〇〇億円とするための記帳を指示したが(乙第二七号証及び第二八号証)、これはクリーン・アップではなく、BV勘定のうち、さしあたってラウンドナンバー一〇〇億円をとりあえず残しておいて、その余の額はCEL勘定に戻すという程の意味であり、利息計上の対象となるものではない。そして、この残高一〇〇億円は、次の五九年度の期首においてCEL勘定に戻され、消滅している。

最終的には、BV利息の計上もBV勘定への振替記帳も全部訂正されており、貸付利息の発生や経済的利益の供与は存在しない。

(七) クリーンアップ制度は、コモドール・インターナショナル社がコモドール・グループ内の販売会社の財務上の管理のために考え出した制度であるから、これを原告に適用したこと自体が間違いであった。BV勘定への振替記帳及びBV利息の計上に係る記帳は不規則かつ混乱しているが、これは、事務処理上誤ってクリーンアップ制度を適用したためである。当時はコモドール・グループ及び原告の事業が急激な膨張をしているときであり、事務の管理が十分でなかったことも間違いの原因であった。

(八) アメリカ合衆国の公認会計士であるG・E・ホルドレンは、本件に関する原告の総勘定元帳、仕訳記入、通信文等の関連書類の詳細につき、直接確認し、調査したが、その分析によれば、以下のとおりのことが判明している。すなわち、CEL勘定にあたる原告のCEL社に対する債権の九六・一パーセントは、原告からCEL社への製品等の販売によるものであって、原告は、日本国内で生産調達した製品をCEL社に販売しており、その代金は船荷証券日付後九〇日以内の支払承諾後書類引渡し条件で支払を受けるものとされていたが、実際には、引渡後九〇日払の約束手形によってCEL社からの購入代金の支払いを受けていた。なお、荷為替手形は、銀行の信用状の発行を必要とし余分の費用がかかるので、支払条件になっておらず、インボイスの支払条件文中の「D/A」という記載部分は無意味な記載であった。そうすると、CEL勘定の残高が支払期限到来のものか未到来のものか否かの判断は、三か月(九〇日)遡って分析する必要がある。

昭和五七年三月三一日から同年六月三〇日までの三か月間のCEL社による代金支払と販売相殺項目を順次古いものから控除していくと、この間のCEL社から原告に対する支払代金のうち合計三九億六六一万八四五〇円が、支払期日未到来のまま支払われていたことが判明した。したがって、昭和五七年六月三〇日現在のCEL勘定残高一六億七二九二万〇二四〇円は、その全額について支払期限未到来のものである。なお、昭和五八年六月期及び昭和五九年六月期についても同じ手法で分析すると、当該二年間にCEL社から原告に支払われた支払代金のうち、合計一四九億四九六六万六三三一円が支払期日未到来のまま支払われていた。

BV勘定への振替えは、代金支払がなされた後のCEL勘定残高をBV勘定へ移すものである。ところが、原告は、現実には、その仕入代金の決済及び会社運営費等の日々の経費を支払う資金が不足するため、CEL社に要請して前受金の支払いを受けていた。そして、原告はCEL社に対し常に受取超過の状態にあったのであるから、CEL社及びBV社とのいずれの関係においても、BV勘定につき原告に対する支払利息が発生する余地はなかった。

ホンドレンが言わんとしていることは、CEL勘定とBV勘定の間の振替えは、単に一つの勘定から他の勘定へ移すという記帳行為に過ぎず、原告のCEL社に対する債権に対してネット(正味)で影響を与えるものではないということである。

4  たな卸資産の計上もれ認定(昭和五九年六月期)について

(一) 原告は、CEL社に対して納入する製品及び部品等の納入価格(販売価格)並びにその調達価格(仕入価格)として、CEL社が設定する「標準原価」(CEL単価)を使用している。いわば、CEL単価を実際原価として個別法によって計上していたものである。

そして、原告が国内メーカー等から製品及び部品等を調達した実際の仕入価格と右のCEL単価との差額は、購入価格差異、すなわちCEL社に対する売掛金に付け替えて計上していた。

(二) 原告とCEL社との間の販売価格は、両者の協議により決定されていた。コモドール製品の国内売りの販売価格については全くCEL社の関与するところではなかった。CEL社は株主として原告の経営をその取締役会に委ねていたもので、原告の経営の細部に一々口を出していたわけではない。原告における製品及び部品等の仕入及び国内販売の価格は、取引相手の意向もあるから、CEL社が決定できるような性質のものではなかった。

(三)(1) 原告は、昭和五九年六月期の期末には、CEL単価に基づいて帳簿上計上していたたな卸資産(九五億七六一一万三四六八円)を実際原価に洗い替えて計上した。個別法による右CEL単価に基づくたな卸の金額九五億七六一一万三四六八円と被告主張の最終仕入原価法に基づくたな卸評価額九九億一七五七万四〇〇二円との差額分は、購入価額差異、すなわちCEL社に対する売掛金として実現済みの所得となっていたものにほかならないことになる。

そうすると、原告が期末におけるたな卸資産の評価について、先入先出法による金額を計上しても、適正に各事業年度における所得の金額の計算を行うことができ、期末における原告の所得金額に影響を与えるものではないから、原告の評価方法自体は正当である。

(2) 仮に、被告主張の最終仕入原価法による評価額をもってたな卸資産の金額を増額して計上すべきものとする場合には、期末における原告の所得金額の計算に際し、購入価額差異、すなわちCEL社に対する売掛金の額から右の増額分に相当する金額を控除しなければ、両者の重複分について二重に課税する結果になる。

(四)(1) 昭和五九年六月期について、コード番号四九六に記帳された同年六月分の購入価額差異残高一億四九八六万八四六一円は、その借方丁数六-四四九に記載された六月中の購入価額差異一億八一一三万二八四七円と、貸方丁数六-四四に記載された下請製造業者の値引き三一二六万四三八六円との差額である。これは、元来はCEL勘定の借方(原告のCEL社に対する売掛金の増額)へ付け替えられるべきものであった。

コード番号一二四(「Inventory Variance」たな卸差異)の借方丁数六-四七三にたな卸資産の数量差異(増)として記帳されている一五七六万四八五円も、本来CEL勘定の貸方に付け替えて原告のCEL社に対する売掛金を増減すべきものであった。

ところが、コモドール・グループの連結決算のために、昭和五九年六月期末の期末たな卸資産を先入先出法に基づいて評価したところ、一億三八二一万七五三二円のたな卸評価差益を生じた。これは、コード番号一二四(「Inventory Variance」たな卸差異)の借方丁数六-四七二に記帳されている。これはCEL社に対して負担させている購入価格差異の期末在庫たな卸資産相当分の戻入であるから、本来ならばCEL社に戻入れ(原告のCEL社に対する売掛金を減少させる処理)すべきものであった。

そうすると、本来は、購入価額差異残高一億四九八六万八四六一円をCEL勘定の借方に記入し、たな卸資産の数量差異(増)一五七六万〇四八五円及びたな卸評価差益一億三八二一万七五三二円の合計一億五三九七万八〇一七円をCEL勘定の貸方に記入しなければならなかったのである。それによって、右の純差額四一〇万九五五六円がCEL勘定の貸方を増加させ、その額だけ原告のCEL社に対する売掛金が減額されることになった筈である。

(2) 原告が実際に行った処理は次のとおりである。

右の購入価格差異残高一億四九八六万八四六一円を構成する六月分購入価格差異一億八一一三万二八四七円については、期末決算で売上原価に一億四九八六万八四六一円を加算し、同額をたな卸資産から一億八一一三万八八四七円を減額して処理し、その差額三一二六万四三八六円は仕入値引勘定(コード番号九二〇)から購入価格差異勘定(コード番号四九六)へ振替えた。

右のたな卸資産の数量差異(増)一五七六万〇四八五円については、その金額をコード番号一二四(「Inventory Variance」たな卸差異)の借方に記帳すると同時に、コード番号四九九(「Inventory Variance」たな卸差異)の貸方丁数六-四七三に記帳し、売上原価を減算している。

右の期末たな卸評価差益一億三八二一万七五三二円分については、その金額をコード番号四九二「その他の売上原価」の貸方丁数六-四七二に記帳して売上原価を減算し(甲第四〇号証二頁)、同額をコード番号一二四(「Inventory Variance」たな卸差異)の借方六-四七二に記帳して期末たな卸資産を増額した。

その結果、四一〇万九五五六円の過大利益を計上したが、CEL社に対する売掛金から四一〇万九五五六円を差し引く処理はしなかった。

(3) 原告が右(2)の処理をして、昭和五九年六月分の購入価格差異をCEL社に付け替えなかった理由は、前記の期末たな卸評価差益一億三八二一万七五三二円の額が購入価格差異残額一億四九八六万八四六一円とほぼ同額であり、更に期末に発見されたたな卸資産の数量差異(増)一五七六万〇四八五円を考慮すると、借方とか貸方の純差額はわずか約四百万円の問題であり、その決算に与える影響は僅少であると判断したからである。

これらの処理は記帳としては一貫しており、結果として過大利益四一〇万九五五六円を計上することになっているのであるから、税務上の問題はない。

六  原告の主張に対する被告の反論

1  本件研究開発費及び本件消耗品費について

租税特別措置法四二条の四第五項一号及び同法施行令二七条の四第二項一号によれば、試験・研究のために要する費用とは、製品の製造または技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する原材料費、人件費(専門的知識をもって当該試験研究費の業務に専ら従事するものに係るものに限る。)及び経費とされ、会計実務と同じく支出の具体的内容は多岐にわたるものとされている。

「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和三八年大蔵省令第五九号、以下「財務諸表規則」という。)八六条によれば、会計実務上の技術研究費(新製品または新技術の開拓等の費用で企業全般に関するもの)の表示方法については、当該費用を示す名称を付した科目(研究開発費、試験研究費、研究費など)をもって表示すれば足りることとされている。右科目の試験研究費等を構成する支出には、労務費や給与等の人件費科目、家賃、事務用品費、雑費等で表示される支出であっても、それが試験・研究のために支出した費用である限りは右の技術研究費にすべて包含され計上されることとなる。

そして、企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書第五の第三の2の(3)によれば、試験・研究のために特別に支出した費用とは、製品の試作費、製法の研究費その他新たな製品の製造又は新たな技術の発明に係る試験研究のために特別に支出した費用をいうのであるから、これに新製品の生産技術の開発に係る費用も含まれるのは当然のことである。

2  BV利息の寄付金認定について

(一)(1) 原告の本店所在地である我が国においては、内国法人の全世界における所得全部について三〇から四三・三パーセントの段階税率による法人税が課されるが、その外国における所得につき外国で重複課税されたときは、内国の法人税につき外国税額控除を受けることができる。外国法人の支店等には国内で生じた所得のみについて所定税率による法人税が課される。また、源泉所得税の税率は一〇パーセントとなっている。

(2) コモドール・インターナショナル社及びCEL社の支店所在地であるアメリカ合衆国では、内国法人の全世界における所得全部について所定税率による法人税が課されるが、その外国における所得につき外国で重複課税されたときは、内国の法人税につき外国税額控除を受けることができる。外国法人の支店等には国内における所得のみについて一五から四六パーセントの段階課税率による法人税が課される。また、源泉所得税の税率は一〇パーセントとなっている。

(3) オランダ王国においては、内国法人の全世界における所得全部について三五又は四五パーセントの所定税率による法人税が課されるが、その外国における所得につき外国で重複課税されたときは、内国の法人税につき外国税額控除を受けることができるとされている。また、オランダ法人から利息(利子及びロイヤリティー)の支払を受ける者は、源泉所得税を差し引かれることなく当該利息の全額を受領することができる。さらに、オランダと租税条約を締結している国に所在する法人がオランダ法人に対して利息を支払う場合にも、当該租税条約に基づき、利息に源泉所得税が課税されないこととされている。この面からも、オランダに金融子会社であるBV社を設立することのメリットがある。

(4) 原告がBV勘定の記帳を取り消したことは、原告の余剰資金の運用益を利息として支払を受けることとすれば支払国で源泉所得税が課されるばかりでなく、日本国においても右の受取利息につき法人税が課されることになるので、このような租税負担を回避するためのものであったと思料でき、その反対記帳による処理には合理的な理由が存しない。

(二) ホルドレンの分析の対象とされた原資料のすべてが本件で証拠として提出されているわけではないから、その分析は具体的な根拠に欠けるものであって、到底首肯することができない。

右分析は、原告がCEL社に対して部品及び製品等を輸出した場合の決済が、インボイスに記載された支払条件どおりになされてはいなかったにもかかわらず、それに何ら言及することなく、CEL社の原告に対する支払が「九〇日の支払条件」であったことを前提としている。しかしながら、「九〇日の支払条件」とはCEL社が原告に対して決済する場合における最大限の支払猶予期日のことであるから、現実の決済と異なる。右分析は、右支払条件についての前提が誤っている。

更に、右分析は、CEL社は原告に対して常時過払い(債務超過)となっていたというが、これは原告の法人税申告書の申告内容と矛盾するものであって、信用することができない。

3  たな卸資産の計上もれ認定について

(一) 原告の主張する評価差益額及び数量差異額がいかなる内容のものであるのか、また、それらの金額の算出根拠はどのようなものであるのかについては、全く不明である。原告の提出した甲第三七号証ないし第四一号証には原告の主張する金額の記載があるだけで、その算出根拠が不明である上に、右記載内容の実体を立証する原資料は全く存しない。

(二) 原告の昭和五九年六月期の確定申告書に添付されている貸借対照表等によれば、原告は同年五月末日現在で、その保有するたな卸資産について、その保管する場所ごとに実地たな卸を行い、これにより把握された数量に同年六月の入出庫量を加・減算して、六月末現在の実地たな卸数量を把握した上、最終仕入原価法による評価額を算出し、その合計金額一〇三億六六三九万六一七一円に所要の加・減算を行って、期末たな卸高が先入先出法による評価額になるように修正計算していた。

その期末たな卸高に係る加算、減算は既に別表六のとおり行われており、その減算項目には「たな卸計上保留分」として金三億四八九三万九三七三円と金一億七一〇六万〇六二七円の合計五億二〇〇〇万円が計上されていたのである。右「たな卸計上保留分」なるものがいかなる内容のものであり、いかなる根拠で算出されたものであるかは不明であるが、原告主張の評価差益額一億三八二一万七五二三円、数量差異(増)額一五七六万〇四八五円、購入価格差異額一億四九八六万八四六一円についても右「たな卸計上保商分」の算出過程において調整されているものと推認されているところである。

被告は、右修正計算において表れている数値に基づいて、本件たな卸計上もれの金額を算出したものである。原告の主張はその根拠が不明であって、失当というべきである。

(三) 原告は、実際価格とCEL単価との差額は、原告が当該製品部品を購入した時点で購入価格差異としてCEL社に付け替え、いわばCEL社に対する売掛金として計上されているから、たな卸資産の期末評価額が増額されるのであれば、増額分に相当する売掛金額が減額されなければ同一所得分につき二重課税することになると主張するが、実際には、昭和五九年六月期分の購入価格差異はCEL社に付け替えられていないから、二重課税にならない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一更正及び賦課決定の経緯(請求原因1)について

本件各更正及び本件各賦課決定並びにこれらに対する原告の不服申立て及びこれに対する応答の経緯が別表一ないし三(経過表)に記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

第二更正の理由付記(抗弁1)について

一  更正の理由付記の程度について

法が、青色申告に係る法人税の更正について、更正通知書にその更正の理由を附記すべきものとしたのは、青色申告による所得の計算が法定の帳簿組織による正当な記載に基づく限り、その記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、更正をする処分庁の判断の慎重さと合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるためのものであると解される。

そうすると、右の更正の理由付記として摘示すべき内容は、相手方が更正の理由を客観的かつ具体的に知ることのできるものでなければならず、その更正が帳簿書類の記載自体を否認してするものである場合においては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要す。しかし、その更正が帳簿書類の記載自体を否認することなしに、これを前提にして更正をする場合においては、右の更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、前記の更正の理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に、更正の根拠を具体的に明示するものであれば、更正の理由付記として欠けるところはないものと解すべきである。また、その更正が帳簿書類に記載された基本的事実に係る行為の私法上の効力を否定することなく、その記載を前提にして、専ら租税法上の法的評価に係る見解の相違からその効力を否定するという場合にも、理由付記としては、課税庁の当該法的評価ないし法的判断の結論とあいまって、それがどの事実に対する法的評価ないし法的判断であるかが明確に判別できる程度に表示されていれば足りるものと解される。以上の見地に立って、本件における理由付記の適法性を検討する。

二  研究開発費の否認について(昭和五七年六月期、昭和五八年六月期)

成立に争いのない甲第一号証の一、二によれば、本件各更正における研究開発費の否認理由は、帳簿に記載された費用が、その使途で支出されたことを前提としたうえで、これを負担すべき者を原告ではなく、CEL社であるとしているものであって、帳簿の記載を否認しているものではないと認められる。そして、右証拠によれば、その更正の理由としては、原告が商社機能を有する法人であって、その収益がコミッション収入であり、試験研究費及び開発費を負うほどの利益が確保されていないこと、原告の研究開発がCEL社の指示に基づいて行われ、その成果としてのノウハウ等のすべてがCEL社に帰属すること及びI/Oメモに、研究開発費がCEL社によって負担される趣旨が記載され、これはI/Oメモ作成以前も同様であったことが挙げられていることが認められ、これらの記載によれば、原告は、被告がどのような理由で更正を行ったかを知り、防御することが充分可能であると解され、更正の理由付記として欠けるところはないものと認められる。原告が、右記載が更正の理由として不十分であるとして主張するところは、理由付記の手続に対する不服の域を越え、更正の内容についての不服に属するものというべきである。

三  消耗品費の否認について(昭和五八年六月期、昭和五九年六月期)

右甲第一号証の二及び成立に争いのない甲第一号証の三によれば、本件各更正における消耗品費の否認理由は、帳簿に記載された費用が、その使途で支出されたことを前提としたうえで、これを負担すべき者を原告ではなく、CEL社であるとしているものであって、帳簿の記載を否認しているものではないと認められる。そして、右証拠によれば、その更正の理由としては、当該支出が研究開発のための器具備品の購入に要した費用であり、その費用の性格は研究開発費に属すると認められるとしたうえで、右二の研究開発費の否認理由を援用していることが認められ、これらの記載によれば、右二と同様に、原告は、被告の更正の理由を知り、防御することが充分可能であって、更正の理由付記として不備はないと認められる。

四  広告宣伝費の否認について(昭和五八年六月期)

右甲第一号証の二によれば、本件各更正における広告宣伝費の否認は、いったん原告の勘定に記帳し、後にホーム社に対する債権として振替記帳した広告宣伝費のうち、ホーム社が営業停止した間に再度原告の広告宣伝費として振り替えた分をホーム社に対する無償の利益供与と認め、寄付金に該当するとしたもので、原告の帳簿の記載を否認しているものではないと認められる。そして、右証拠によれば、その更正の理由としては、ホーム社の販売開始や営業停止がCEL社及びホーム社の判断によりなされており、ホーム社の広告宣伝費を原告が負担する理由を認め難いこと、ホーム社の広告宣伝費を原告が負担する合理的理由がなく、この配分がホーム社の昭和五八年六月期の申告所得の調整のために行われたと認められることを挙げていることが認められ、これらの記載によれば、原告は、被告がどのような理由で更正を行ったかを知り、防御することが充分可能であると解され、更正の理由付記として不備はないものと認められる。原告が、右記載が更正の理由として不十分であるとして主張するところは、理由付記の手続に対する不服の域を越え、更正の内容についての不服に属するものというべきである。

五  貸付利息の認定について(昭和五八年六月期、昭和五九年六月期)

前記甲第一号証の二、三によれば、本件各更正における貸付利息の認定は、原告のCEL社に対する売掛債権のうちBV勘定に振替えられた金額につき、これを貸付金の性格を有する金員と認め、その利息相当額の請求権の放棄をCEL社に対する無償の利益供与に当たるとして、この利益供与を、寄付金と認めたものであり、原告の帳簿の記載を否認しているものではないと認められる。そして、右証拠によれば、この更正の理由としては、I/Oメモに、BVに対する預金に対しては利息が支払われる等の記載があり、BV勘定が資金運用勘定であることが明らかであること、原告が、いったんは、BV勘定借方に受取利息を計上し、記帳している事実のあること、BV勘定は現在も存在し、同残高に係るコモドールグループ内の利率も通知されていて、受取利息の計算が可能な状態であること及びBV勘定に振り替えられた金額はCEL社に対する売掛債権の範囲内であり、かつ、BV勘定の設定はCEL社に対する売掛債権が急激に膨張した時期をもって振り替えられており、BV勘定に振替表示された金額は売掛金の回収行為と認められることを挙げていることが認められ、これらの記載によれば、原告は、被告がどのような理由で更正を行ったかを知り、防御することが充分可能であると解され、更正の理由付記として不備はないものと認められる。原告が、右記載が更正の理由として不十分であるとして主張するところは、理由付記の手続に対する不服の域を越え、更正の内容についての不服に属するものというべきである。

六  廃棄損失の否認について(昭和五九年六月期)

前記甲第一号証の三によれば、本件各更正における廃棄損失の否認は、原告の帳簿の記載を前提として、その損失を原告ではなく、CEL社が負担すべきものとしたものであって、原告の帳簿の記載を否認したものではないと認められる。そして、右証拠によれば、その更正の理由は、原告が商社機能を有する法人で、その収益はCEL社の生産スケジュールに基づき製品及び半製品の調達を行うことによるコミッション収入となっていて、廃棄損失を負担すべき利益が確保されていないこと及びI/Oメモには、通常の生産のために必要なものとして購入されたもので廃棄相当となった廃棄品及び過剰原材料についてはCEL社において負担されると記載されていて、調達機関である原告がリスクを負う立場にないことが明らかであることが挙げられていることが認められ、これらの記載によれば、原告は、被告がどのような理由で更正を行ったかを知り、防御することが充分可能であると解され、更正の理由付記として不備はないものと認められる。

七  たな卸計上もれの認定について(昭和五九年六月期)

前記甲第一号証の三によれば、本件各更正におけるたな卸計上もれの認定は、原告の帳簿の記載を前提として、原告がたな卸資産の評価を先入先出法によって算出しているが、その届け出た評価方法は最終仕入原価法であるから、この方法による評価額と先入先出法による評価額との差額をたな卸計上もれとして当期の利益に加算するとしていることが認められ、この記載によれば、被告は、右更正の理由付記として充分の記載をしたものと認められる。

八  まとめ

以上によれは、本件各更正は、いずれも更正通知書における更正の理由付記の記載に欠けるところはないものと認められる。

第三所得金額等について

一  原告の申告額について

原告が昭和五七年六月期、昭和五八年六月期及び昭和五九年六月期に申告した所得金額及び翌期繰越欠損金の額は当事者間に争いがない。

二  本件研究開発費(昭和五七年六月期、昭和五八年六月期)及び本件消耗品費(昭和五八年六月期、昭和五九年六月期)の否認について

1  抗弁2(一)(2)、同(二)(2)及び(3)並びに同(三)(4)の事実中、原告が被告主張額の本件研究開発費及び本件消耗品費を損金に算入したこと、原告が、アメリカ合衆国に本部人員又は事業拠点を有する多国籍企業グループであるコモドール・グループに所属していること、その組織の頂点にある法人はバハマ国に登記した本店を有するコモドール・インターナショナル社であり、同社がコモドール・グループのために一般的方針を樹立していること、CEL社は原告の親会社であり、コモドール・グループに属すること、コモドール・グループがホームコンピューター(パソコン)メーカーとして、アメリカ合衆国において三大メーカーの一つであると考えられており、世界各地に支店、工場及び販売会社を有する国際企業であること、その組織が、昭和五二年において別表四のとおりであること、昭和五九年二月二七日から同年三月一日にかけてロンドンでコモドール・グループのコントローラー会議が開催され、右会議に関連して、昭和五九年三月三〇日付けI/Oメモが作成されたこと、原告が調達する製品及び部品等の調達価格並びにCEL社への納入価格について、「標準原価」を定めており、原告は、実際の購入価格と標準原価(CEL単価)との差額を購入価格差異として別に管理していること、昭和五九年六月期以降は原告について研究開発費の計上がなく、これはCEL社が負担していることは当事者間に争いがない。

2  被告は、原告のコモドール・グループ内における役割は、日本国内で、コモドール製品、半導体及びプリンター等のホームコンピューター用の部品を購入し、CEL社に納入する部品等の調達が主であり、その他に子会社であるケントロン及びその下請け会社によるコンピューター及び周辺機器の製造をも一部行っているだけであって、コモドール製品の研究開発の分野を担っているものではなく、被告が損金算入を否認した研究開発費は、CEL社の開発計画に基づいて、CEL社のために支出する費用であり、その成果としてのノウハウ等の実行権利はCEL社に帰属するから、その費用は、CEL社が負担すべきものであると主張し、安威忠男の聴取書(証人安威忠男の証言により成立が認められる乙第一号証及び乙第二〇号証)は、これに副う。しかしながら、右聴取書において安威は、本人が原告に在社中占めていたコントローラーという職につき、これは、会社の総務部長、経理部長及び人事部長を兼ね備えた地位で、原告の経営全般を統括していたものであると述べているが、証人トーマス・H・マトソン(以下「マトソン」という。)の証言によれば、コントローラーという職が原告において果たす役割は、経理面のみを専門的に統括する専門職であると認められ、右の陳述は誇大なものであると認められること、I/Oメモの記載によれば、CEL社との間に契約書がない限り、原告が支出した広告宣伝費の全額を直ちにCEL社が負担することとなるものではないと認められるのに、安威は、そのような契約書が存在しないことは認めながら、合意があるのでCEL社が負担することになっているなどと確たる根拠のないことを述べていること並びに安威は必ずしも本意でなく原告を退社しており(証人マトソンの証言及び安威本人の乙第一号証における陳述によって認められる。)、その供述は必ずしも客観的な立場からのものとはいい得ないことによれば、右聴取書は、これを直ちに措信することができないものというべきである。

かえって、証人両角雅雄の証言によって真正に成立したと認められる甲第一〇号証、同証人の証言によってその原本の存在及び成立を認めることのできる甲第四号証並びに同証人及び証人松本武郎の各証言によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告の事業形態は、〈1〉IC等コンピューター部品の調達、〈2〉フロッピーディスクドライブ、モニター、プリンター等のコンピューター周辺機器の製造、〈3〉新製品の量産技術に関する研究開発にあり、右周辺機器の製造は、CEL社からの仕様に基づき原告が下請け工場に製造させたり、いわゆるOEMとして、そっくり他社にその製品を製造させてそれを買い上げたりするものであり、下請工場に製造させる分については、生産ラインに必要なカラーテレビ、モニター、冶工具類を原告が支給しているため、これらものが消耗品として計上されている。

(二) 原告は、昭和五七年九月三〇日電卓製造メーカーであったケントロンを買収したが、それ以前には、原告に品質管理部門はなく、所属の技術者も一〇名程度で技術的な能力は必ずしも高くなかった。しかし、ケントロンの買収後は、その役員であった松本武郎が、原告の製造部長、品質管理部長、生産技術部長及び開発設計部長として技術、製造、品質管理関係の業務を担当するようになり、技術者の人数も増え(製造部所属の技術者は昭和五八年六月末当時三二名となった。)、製造部のほかに品質管理部が設置されて原告自身の技術能力の改善が進んだ。

(三) 本件研究開発費(昭和五七年六月期及び昭和五八年六月期)の具体的な内容は、工具類(半田、テープ、オシロスコープ賃借料、写真代、モニター、テレビ、プリンター等)、治工具及び実験用部品代、比較検討用の他社製品、二〇万円未満の生産用型及び治工具並びにNCテープ、生産ライン用のモニターテレビ、プリンター及びフロッピーディスク、試作品制作用の部材、OEM購買検討用の商品及びユニット部品の購入費用並びにゲームソフトの日本語版変換費用である。

本件消耗品費(昭和五八年六月期及び昭和五九年六月期)の具体的な内容は、原告が下請業者に無償で支給していた生産ライン用のカラーテレビ、モニター、治工具等である。

(四) 本件研究開発費及び本件消耗品費は、いずれも右(一)製品等の量産に関し、原告が下請生産及びOEM生産のために無償で支給した原材料、製造過程の治工具、モニター等の費用、原告において量産用の試作品を作るなどして量産設計をするに要した費用並びに量産実施の技術指導のために原告から派遣した技術者及び検査員にかかる費用であった。

(五) 本件研究開発費及び本件消耗品費の中に、製造関連技術費用以外のドキュメンテーションルーム分の超過項目費用、設計作業費用、ソフトウェア開発費用、その他の新製品に係る研究開発費(R&D)は含まれていない。

3  以上の事実によれば、以下のとおり、本件研究開発費及び消耗品費は、原告が負担すべきものであると認めるべきである。

(一) 被告は、本件研究開発費及び本件消耗品費が製品の開発設計に要した費用であるとして、これを原告の損金に計上することは許されない旨主張するが、原告が子会社であるケントロン及びその下請企業によるコンピューター及びその周辺機器の製造に関与していたことは、被告もこれを認めるところであり、そのことと、日本国内の他の企業からコンピュータ用の製品及び部品等を調達しCEL社に納入するという原告の役割とが矛盾するものとはいえない。

前掲乙第一号証及び第二〇号証によれば、安威忠男が被告の主張に沿うかのような説明をしており、原告の経理担当職員であった武田道春作成の昭和五九年八月九日付の税務調査問答集に、開発研究費はコモドール・グループ全体の費用であるとして、その費用はCEL社が負担する旨記載していることが、それぞれ認められるものの、これらはコモドールの新規開発製品に関する費用についての説明に過ぎないものと理解することも可能であるから、必ずしも被告の主張を支持するものではない。

(二) 被告は、原告の昭和五七年六月期、昭和五八年六月期及び昭和五九年六月期の研究開発費及び消耗品費に係る経理処理が一貫しておらず、CEL社負担としたり原告負担としていて、このことがコモドール・グループにおいて日本での法人税負担を少なくするため恣意的に費用負担の変更がされたことを示している旨主張する。

しかし、右は本件研究開発費及び本件消耗品費以外の費用に係るものであるうえ、コード番号七〇〇番台に記帳する事項を変更したことについての原告の説明には合理性が認められる。そして、竹田作成の本件研究開発費及び本件消耗品費に係る税務調査問答集の記載は、その内容が事柄の真実を示すものであることは認められないから、被告の主張の証拠にはならないというべきものである。また、証人安威忠男の被告係官に対する説明内容も、本件研究開発費及び本件消耗品費に係る部分は措信できない。

(三) そうすると、本件研究開発費及び本件消耗品費は、いずれも原告が製造された製品を購入調達するに要した費用として、原告自身の事業活動によってもたらされるべき収益との間に対応関係があるものと認められる。

三  本件広告宣伝費の寄付金認定について(昭和五八年六月期)

1  ホーム社が昭和五七年一〇月二五日に設立され、日本国内におけるコモドール製品の販売及び広告宣伝活動を開始したこと並びに原告が損金の額に算入した昭和五八年六月期の広告宣伝費一億七一七二万二九五〇円のうち、本件広告宣伝費一億四八五〇万七三五〇円がホーム社から原告に付け替えられたものであることは、当事者間に争いがない。

右争いのない事実、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第三三号証、成立に争いのない甲第四二号証及び甲第一一号証の二、三、弁論の全趣旨により原本が存在しかつ真正に成立したものと認める甲第四三号証ないし第四七号証、原本の存在につき争いがなく、弁論の全趣旨により原本が真正に成立したものと認める乙第九号証、第一〇号証の一、二及び第一一号証の一並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

ホーム社が昭和五七年一〇月二五日に設立された目的は、コモドール六四、VIC一〇〇一及びMAXマシーンの日本国内における総発売元として国内販売市場を開拓することにあり、設立直後からその販売活動を開始した。右の国内販売及びホーム社のための広告宣伝活動は、宣興インターナショナル株式会社が引き受けて実行した。これらの費用に係る同社に対するホーム社の債務は、原告が無償でこれを引き受けて弁済しており、ホーム社自身はその支払をしていない。しかしながら、MAXマシーンの国内販売は失敗に終り、昭和五八年四月末の新聞では、ホーム社がMAXマシーンの販売を同月二一日で打ち切って、本来のホームコンピュータのソフトウエアの開発に専念することになったと報道された。ホーム社は、その後しばらくしてから休眠会社となり、法務大臣の職権により平成元年一二月三日解散させられた。

2  原告は、本件広告宣伝費は、一旦は原告が自己の広告宣伝費勘定に計上し、これを原告からホーム社に付け替えた費用の一部であって、この後ホーム社から再び原告の広告宣伝費勘定に振替えたものであるという。そして、原告からホーム社に付け替えた広告宣伝費の請求者は、宣興インターナショナル株式会社一社のみであって、同社と原告との当時の取引関係は、原告が同社にテレビ及びラジオのスポット広告、広告掲示、雑誌掲載等の広告宣伝を指示し、原告が同社から請求を受けて支払っていたものである旨、このうちの本件広告宣伝費は主としてMAXマシーンという特定の製品の販売に係る企画広告の費用である旨、MAXマシーンの広告宣伝の企画及び外部への嘱託は、すべて原告が行ったものである旨主張する。

しかしながら、いったん原告からホーム社に付け替えられた費用に係る債務は、その帳簿操作によって、以後ホーム社の債務となり、原告はその債務負担を免れることとなる。そのようにしてホーム社の債務となったものは、もはや原告の債務ではなくなっているのであるから、これを再度原告に付け替えることとすれば、今度は、ホーム社が債務を免れ、原告が債務を負うこととなるのであって、ホーム社と原告との間に、財産的価値の移動が発生することは明らかである。被告は、この間の財貨の移動をとらえて寄附金の認定を行っているのであり、原告が、右付替えによって、債務がホーム社の負う義務となったあとも、なおそれが原告の債務であったと主張するのは、それ自体で理由のないものという他はない。

なお、原告の主張が、いったん原告からホーム社に付け替えられた費用に係る債務が、何らかの理由により、その後も引き続き原告自身の債務としてとどまっていたとの趣旨であるものと解したとしても、ホーム社に現に存在し、その後原告に付け替えられた債務がその以前に原告からホーム社に付け替えられた債務と同一のものであることを認めるべき証拠は、本件において存在しない。

3  前記認定のとおり、本件広告宣伝費について、ホーム社の宣興インターナショナル株式会社に対する債務は、原告が無償でこれを引き受けて弁済している。原告がした本件広告宣伝費に係る右の処理は、その金額に相当する収益をホーム社に帰属させるものである。

原告は、ホーム社がMAXマシーンの販売打切りにより、そのままでは債務超過で破産せざるを得ない危機的状況に陥ったため、原告が債務をひきとらずにホーム社を破産させるならば、親会社である原告自身が社会的信用を失い、その事業に多大の損失を蒙ることは明らかである旨、本件広告宣伝費を原告に振替えたことは、ホーム社の親会社としての原告自身の社会的信用を守るためのことであるから、これには相当の理由がある旨主張する。

弁論の全趣旨によれば、本件広告宣伝費は、原告の子会社であるホーム社の昭和五八年六月期の期末における広告宣伝費勘定の残高の大部分を占めていたものであること、これを原告の広告宣伝費勘定に振り替えたものの、これに相当する金額について、原告はホーム社に対する債権発生の記帳をしていないことが認められる。このような経理処理は、営利法人として原告及びホーム社との間において行われる通常の取引形態からは逸脱しており、以上の事実を総合すると、この経理処理の目的は、ホーム社の損益をゼロにして欠損金の計上を回避する目的に出たものと推認される。ホーム社については、昭和五九年六月期の期末決算において利益を計上してはいないものの、欠損は生じていないし、昭和五九年当時において、会社整理、解散、経営権の譲渡等の事態は発生しておらず、その後休眠会社の状態に入って放置されたに過ぎない。ホーム社は単に本件広告宣伝費を原告に付け替えなければ債務超過の状態になったというに過ぎなく、原告において右のホーム社の広告宣伝費を負担せざるを得なかったことについての緊急避難ともいうべきやむを得ない事由があったとまでは認められない。

したがって、本件広告宣伝費に係る原告の処理については、それに相当な合理的理由があったものとはいえないから、その全額に相当する経済的利益は原告がホーム社に供与したものとみるべきものであり、本件広告宣伝費一億四八五〇万七三五〇円に相当する金額を、法三七条に規定する寄付金とした被告の認定に誤りはないというべきである。

四  貸付利息(BV利息)の寄付金認定(昭和五八年六月期及び昭和五九年六月期)について

1  前掲甲第四号証、乙第一号証及び第二〇号証、成立に争いのない甲第三号証、第九号証の一、二、第二〇号証、第二三号証、第二四号証、乙第一五号証、第四一号証ないし第四四号証(いずれも書込みチェック部分を除く。)、証人マトソン、同松本武郎及び同両角雅雄の各証言により原本が存在しかつ真正に成立したものと認める甲第五号証、証人マトソンの証言により原本が存在しかつ真正に成立したものと認める甲第六号証ないし第八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第一四号証、乙第四五号証及び第四六号証、証人両角雅雄の証言により真正に成立したものと認める甲第一五号証及び第一七号証、証人マトソン、同松本武郎及び同両角雅雄の各証言により真正に成立したものと認める甲第一六号証、証人両角雅雄の証言により原本が存在しかつ真正に成立したものと認める乙第五号証、原本の存在及び成立につき当事者間に争いのない乙第一六ないし第一九号証、原本の存在につき争いなく、証人両角雅雄の証言により原本が真正に成立したものと認める乙第二一号証ないし第三八号証、証人安威忠男、同両角雅雄及び同マトソンの各証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和五七年七月以降CEL社に対する売掛金の一部をBV勘定に振替記載するという処理をし、しかもBV勘定の残高に対し、CEL社から通知された利率によって計算された受取利息の額を総勘定元帳に記載していた。原告に係るBV勘定が実際に設定された時期は不明であるが、最終的には、昭和五九年七月一日付をもってCEL勘定に勘定統合され、残高が〇円となった。そして、このBV勘定の期末残高は、昭和五八年六月期が一五五億一九三四万一〇九六円、昭和五九年六月期は一〇〇億円であった。

原告の総勘定元帳中のBV勘定の記帳内容が別表七のとおりであって、その記載内容は、原告及び被告の主張内容(別表五のBV利息計算表記載のとおり)のいずれとも合致しない。右のBV勘定に記帳された個々の金額については、丁数欄に伝票番号が記載されているほか、日付欄及び摘要欄の殆どが空欄のままであって、その個々の金額を記帳した事由を読み取ることはできない体裁のものである。右の個々の金額に一部(別表五のBV利息計算表中の「摘要及び丁数」欄に書証番号を略記したもの)については、その金額及び丁数欄の記載と符合する番号の振替伝票(JOURNAL ENTRY SLIP)が書証として提出されている。

(二) 原告は、親会社であるコモドール・インターナショナル社及びCEL社から、その会計処理の方針について指示を受け、その指示に従って自らの会計処理をしていた。原告に対し親会社からBV勘定の記帳について行われた指示等の日付、その指示の発信者及び内容の要旨は、次のとおりである。

(1) 昭和五七年九月から昭和五八年五月までの間の指示等

ア 昭和五七年九月一三日付「ダイアナ・モイ、同年六月三〇日当時の会社間勘定残高の整理のための記帳として、BV勘定の借方に六五二万四六五〇ドルを記帳するように指示し、四半期終了前にBV社の正式ノートが発行され、この正式ノートには固定金利が付され、利息収入は月利で四半期毎に支払われる。」

イ 同年九月三〇日付(振替伝票)

ウ 昭和五八年一月四日付「ダイアナ・モイ、会社間債務は、長期ノートを短期ノートで構成せよ。四半期ノートには、各四半期の会社間勘定全てを反映させよ。次の四半期までの発生利息の利率は八・八七五パーセント」

エ 同年五月一四日付「クルト・シャウプ、昭和五七年九月から昭和五八年三月までの間のBV勘定の記帳結果は、一億円近い残高差異があり、原告に有利な結果であるとして、同意の有無を連絡せよ。」

オ 同年五月二八日付(原告)

(2) 昭和五八年六月から同年九月までの間の指示等

ア 同年六月九日付「サム・チンからクルト・シャウプに対する指示、同年四月まで一〇か月間、原告につきBV利息所得を発生させた。原告はCEL社の調達代理店に過ぎないから、原告が受ける期限及び約定は、全てCEL社に及ぶべきである。CEL社が九〇日後支払の期限の利益を受けるならば、CEL社も原告から同様の利益を受けるべきである。原告につきBV利息の所得を発生させることはこの要素を無視していたものであるから、年度末に間に合うように原告のBV利息の所得を再計算せよ。」

イ 同月六月一〇日付「クルト・シャウプ、同年三月三一日付で三五〇七万六三九六円をBV勘定からCEL(香港及びバーゼル)勘定に振替えて整理記帳せよ。」

ウ 同月二三日付「クルト・シャウプ、計算書」

エ 同月二八日付「クルト・シャウプ、BV勘定及びCEL勘定の当初残高から、CEL社の原告に対する三か月分の支払に係る三〇日当たり八パーセントの割合による利子を差し引いて、再計算した結果は、一九八三年度中の利子は合計三億一〇二八万五六三一円の逆鞘となる。

オ 同日付「クルト・シャウプ、指示書、従前の貸方記載のBV利息の破棄のため、二億七七九八万一三〇一円を反対記帳せよ。新規分を合わせた残高は、合計残高は五億八八二六万六九三二円」

カ 同月二九日付「クルト・シャウプ、昭和五九年七月一日以降の会社間取引は対『CELバーゼル』と対『CEL香港』の取引に集約する。同日以降の会社間勘定はBV勘定とCEL勘定に集約する。他の会社間で直接の取引勘定を持つことは許さない。」

キ 同年九月二八日付(ダイアナ・モイ)

(3) 昭和五八年一〇月から昭和五九年一月までの間の指示等

ア 同年一〇月三日付「シーバッカー、指示書、CILの決定。BV社がCEL社の原告に対する支払をピックアックする理由はない。昭和五八年六月期にはクリーンアップはしない。従前のCELに係るBV勘定のクリーンアップ及び利息全てを取り消すべきである。従前のCELに係るBV勘定の詳細を報告せよ。報告を待ってチェックの上、反対記帳すべき金額を通知する。」

イ 同年一二月三一日付「原告、BV勘定の一二月残高調整報告」

ウ 昭和五九年一月六日付「シーバッカー、BV勘定残高確認及び整理記帳の指示」

(4) 昭和五九年五月から同年七月までの間の指示等

ア 同年五月七日付「シーバッカー、T・マトソンの指示、BV残高を一〇〇億円に固定せよ。差額のBV勘定残高はCELに振り替えよ。」

イ 同年六月二九日付「イトウ及びコミヤマ、会計監査意見、原告の期末監査における問題点の指摘、CEL売掛勘定から移転されたBV社に対する債権約一〇〇億円について、BV勘定には修正も合理的な利息の発生の記録もない。それは会社間の消費貸借と認識される可能性があるから、税務当局が固定的な控除不能の差額として会社間勘定に利息を評価認定しかねないという問題があると確信する。こちらではどうしようもない。この固定額が会社間の消費貸借と認定されることを覚悟されたい。課税摘発を欲しないならば、通常の商取引の勘定に移しておくことを勧める。」

ウ 同年七月五日付「原告、昭和五九年六月期期末のBV勘定残高は一〇〇億円」

エ 同月一二日付「ラリー・スミス、会社の考え方は、資金の合流点として効果的にBV社を使用するにあった。CEL社は各四半期末に会社間収支をBV社に移す。CEL及びBV社の原告に対する債務の本質は、商取引債権から会社間貸付に移記する必要のないものである。これを商取引債権に移記することは可能である。全ての摘発回避に必要とされる事項はこれで全てか。」

(5) 右(1)ないし(4)によれば、右の指示等に関わった者はダイアナ・モイ一人ではなく、AL・ダンカン(CEL社バーゼル事務所のゼネラル・マネージャー)、クルト・シャウプ(CEL社ガーゼル事務所のコントローラー)、サム・チン(コモドール・インターナショナル社の極東地区担当コントロラー)及びマトソン(コモドール・インターナショナル社の本社コントロラー)も関与しており、しかも、これらの幹部職員の全員が、昭和五九年六月末に会計監査意見が出されるまで一貫して、BV勘定そのものに原告の債権残高を計上すること自体は正当な会計処理であるとの認識を有し、途中で原告のBV社に対する利息の計上は取り消したものの、昭和五八年六月期及び昭和五九年六月期の期末にBV勘定の残額をCEL社に対する債権として付け戻すこともせず、そのままBV社に対する原告の債権として固定させていたことが明らかである。

(三) マトソンは、コモドール・インターナショナル社の財務担当役員バーナード・W・ウィッター名で、コモドール・グループ内の会社間連絡文書であるI/Oメモを作成し、昭和五九年二月二七日から三月一日までの間ロンドンで開催されたコントローラー会議の内容を要約して記載した。

この会議のテーマは、コモドール・グループ全体のコミュニケーションを改善することの重要性、すなわち、営業方針決定の指針として現在及び過去の情報を経営首脳部に提供する目標を果たすためのコミュニケーションを改善することの重要性というものであり、グループ内の既定の会計慣行の修正点などの方針の報告について討議された。その討議項目は、売上勘定、完成製品の標準原価、会社間勘定の手続、財務報告、資金運用及び財務計画、製造関係及びその他の話題(世界的な保険によるカバー、世界的な電算化計画、内部的会計検査の行事、主要な予算の立案手続を含めた資金繰りの付託手続の管理、世界的な所得税計画立案)であった。

I/Oメモの付属書Ⅳは、本文と合わせて、オランダ王国法人であるBV社のコモドール・グループ内における役割、BV社とコモドール・グループ内の他の子会社との取引関係及びこれに係る会計処理の指針を整理して示したものである。BV社は、コモドール・グループのための中央銀行と称して、〈1〉他の子会社はBV社からCEL社に対する買掛金残高圧縮に必要な金額を借入れ、余剰資金はBV社に預託し、これに対しBV社は現地国におけると同率の利息を請求又は支払うこと、〈2〉BV社との取引は文書によること、〈3〉BV社からの借入金額は、反復的信用供与契約書の条件にしたがうこと、〈4〉BV社からの借入金につき発生する利息は、四半期毎に後払いすること、〈5〉BV社はCELから資金の供与を受け、その利鞘は八パーセントとすること等が掲げられている。

BV社の実態は、コモドール・グループ内の数多くの販売会社の中心的な持株会社として各販売会社の株式資本を提供する機能と、同グループ内の各会社間の勘定を清算する機関(clearing house)としての機能を負わされていたものである。コモドール・グループは、その連結財務諸表その他の計算書類の作成を容易にすること及び利息の付加により販売会社からの資金回収の迅速化を促すことをねらって、クリーンアップ制度と称し、複雑に錯綜していた関係会社間の取引をBV社の勘定に集中して計上する会計処理をしていた。この制度においては、関係会社間の未払残高及び受取残高は、それぞれ四半期の期末に取り消され、その正味残高を次の四半期の期首にBV勘定に増加又は減少として記帳し、その四半期の期首からBV勘定に記帳された正味残高につき利息が発生することとされていた。

原告に係るBV勘定の記帳は、クリーンアップ制度を原告に当てはめて会計処理したものである。

(四) 原告の昭和五七年六月期の貸借対照表には「関係会社売掛金」として一九億三九七六万五〇一一円が計上されているが、右の記載自体からは内訳不明である。昭和五八年六月期の貸借対照表には「関係会社売掛金」として二七五億七〇〇二万七〇二八円が計上されているが、右の記載自体からは内訳不明である。また、昭和五九年六月期の貸借対照表には「売掛金」として一一三億八〇三四万六〇三七円が計上され、その付表である「売掛金(未収金)の内訳書」では、右のうち一一三億七五一二万五四二九円がCEL社に対する売掛金として記載されているが、このうち、BV勘定は一〇〇億円であり、CEL勘定は一三億七五一二万五四二九円、その他の取引売掛金勘定は五二二万〇六〇八円となっている。

2  右1の事実によれば、原告、CEL社及びBV社の間における会社間の会計処理のほとんどは、現金支払い等の資産の移転を現実に行うことなく、関係会社間の計算処理のためにCEL勘定及びBV勘定等の勘定項目を相互に設定したうえ、資産の移転を伴う事由が発生すれば、その個々の事由の性質に応じて、その数額を相互の関係会社間勘定項目の借方及び貸方に記帳し、その差引残高をもって移転すべき資産の有高を表示することによって会計処理していたことが認められる。

このような会計処理の方法は、国際間の取り引きに係る会計処理の方法として広く行われているもので、合理的な方法である。右の国際間の会社間勘定項目における借方、貸方及び差引残高の各欄の記載は、通常はその会社間の取引きによって国境を越える資産の移転を伴う何らかの事由が生じ、これによる移転される経済的利益(資産)の金額と、その結果を表すものである。しかし、その個々の記帳の原因が右のように経済的利益(資産)の移転を伴わない特殊の事由によるものであるという特段の事情が認められる場合には、その記帳の金額をもって経済的利益(資産)の移転を示すものと認めることはできないことになる。

3  右1の事実によれば、原告とBV社との間において貸付契約等の資産の移転を伴うべき直接の取引行為が行われた事実は存しないものと認められる。BV勘定については、昭和五八年六月期中に一旦は指示どおりの利息が発生するものとして、その趣旨の記帳がされたものの、同じ同年六月期の期末においては、右の利息の計上は誤解の基づくものであったとして全部取り消されている。したがって、原告においては右の指示どおりの利息による経済的利益の供与を受けていないことが明らかである。

また、右1の事実によれば、BV勘定の記載は、クリーンアップ制度を原告に適用し、CEL社に対する売掛金残高の一部をBV勘定に振り分けて記帳したものである。このように、原告がCELに対する売掛金残高の一部をBV社に付け替えることによってBV社が利益を受けることになるとしても、これによって資産の有高に変動を生ずるものはCEL社であって、原告自身の資産の在り高に変化が生じるものではない。したがって、BV社に対してもCEL社に対しても、原告自身は何らの新たな利益を付与したことにならない。

BV社と原告とは、いずれも同じコモドール・グループに属する子会社であって、通常の企業相互間とは異なるから、右のような資産の移転を伴うべき取引関係とは無関係の会社間勘定項目が設定されたこと自体をもって、不合理な会計処理であるということはできない。

4  被告は、CEL社が原告の売掛金を支払わないまま、その資金をBV社を通じてコモドール・グループ傘下の各企業等に融資し、その融資先からBV社を通じて利息の支払を受けていた旨主張するが、BV勘定の残高について、これがヨーロッパその他で運用されるなど、何らかの経済的利益をBV社又はCEL社にもたらしたという具体的な事実を認めるに足りる証拠は何ら存しないから、被告の右の主張には理由がない。

5  以上のとおりであるから、本件においては、BV勘定の個々の記帳の原因が経済的利益(資産)の移転を伴わない特殊の事由によるものであるという特段の事情が存在する場合にあたるということができる。

したがって、右のBV勘定に記帳された金額をもって経済的利益(資産)の移転を示すものと認めることはできないから、BV勘定の記帳のみを拠り所とする被告の主張には理由がない。

五  廃棄損失の売上原価過大計上分の否認(昭和五九年六月期)について

1  本件は廃棄損失一億二四三六万六七三五円が岡庭流通倉庫に保管していた部品等に係る廃棄損失の額として売上原価に計上された金額であることは、当事者間に争いがない。

前掲の乙第一三号証、原本の存在及び成立につき当事者間に争いのない乙第一四号証、証人両角雅雄の証言並びに弁論の全趣旨によれば、これらの部品等がケントロン、長野日本無線株式会社及び信和デジタルの下請生産の工程で発生した損傷品五六六八万三六五五円及び納期に間に合わせるために原告独自の判断で見込み生産した結果死蔵品となっていた在庫品六七六八万三〇八〇円から成るプラスチック製電子機器部品五六〇立方メートルであること、原告がメイワ興産株式会社に委託し、これらがいずれも昭和五九年九月二八日に廃棄処分されたことが認められる。これらの事実によれば、本件廃棄損失については、原告自身の事業活動によってもたらされるべき収益との間に対応関係があるものの、その廃棄の時期が昭和六〇年六月期に属するため、昭和五九年六月期に計上することが許されない。

原告は、税務申告に当たり、本件廃棄損失に係る帳票の記載を誤認したものであると思われる。

2  被告は、原告がすべてCEL社の指示に基づいてデッドストック等になった部品等も廃棄するものであって、原告が独断で廃棄することはないうえ、その廃棄品及び過剰原材料はCEL社が負担するとの合意がCEL社と原告との間にあったものであるから、右の部品等がデッドストックになったこと等により廃棄されたとしても、その廃棄損失を原告が負担すべきいわれはない旨主張するが、前掲甲第三号証によれば、I/Oメモの付属書Ⅶには、CEL社の行為により陳腐化した原材料をCEL社が負担すると記載されているにすぎなく、本件廃棄損失がCEL社の行為によって陳腐化したものであると認めることはできないものであって、右の被告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

3  前掲甲第一号証の三によれば、昭和五九年六月期更正の理由付記中には、本件廃棄損失に係る岡葉流通倉庫保管分の廃棄時期が昭和五九年九月二六日であると明記されていることが認められる。

確かに、本件昭和五九年六月期更正においては、廃棄損失がCEL社の負担に属するものであることが理由として記載され、帰属年度の異なることは理由とされていないものではあるが、付記理由には、廃棄の時点が次年度に属することの明らかである年月日をもって記載されているのであるから、会計担当者であれば、これを見て、その年の経理処理において右廃棄損失の帰属年度を誤ったことに気づき、次年度に右損失を繰り越して経理処理することは可能であったし、それを要求しても苛酷とはいえないと考えられる。そうすると、右付記理由の故に、年度の帰属の誤りを否認の理由とできないことにはならないものというべきである。

六  たな卸資産の計上もれ認定(昭和五九年六月期)について

1  原告が昭和五九年六月期の申告所得金額の算出に当たり、最終仕入原価法によって算出した取得原価による原価法の評価額に比較し、たな卸資産の期末評価額として低額な先入先出法によって算出した取得原価による原価法の評価額を計上していたことは、当事者間に争いがない。

2  法二九条によれば、内国法人のたな卸資産につき各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入する金額を算定する場合において、その算定の基礎となる当該事業年度終了の時において有するたな卸資産の価額は、その内国法人がたな卸資産について選定した評価の方法により評価した金額(評価の方法を選択しなかった場合には、評価の方法のうち政令で定める方法により評価した金額)とするとし、同条二項によれば、選定をすることができる評価の方法の種類、その選定の手続その他のたな卸資産の評価に関し必要な事項は政令で定めるとされている。そして、令三一条一項によれば、右の政令で定める方法は、令二八条一項一号トに掲げる最終仕入原価法により算出した取得金額による原価法とするとされ、令二八条一項一号トによれば、この最終仕入原価法とは、期末たな卸資産をその種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、当該事業年度終了の時から最も近い時において取得したものの一単位当たりの取得価額(実際の取得価額)をその一単位当たりの取得価額とする方法をいうとされ、令二九条及び三〇条によれば、その評価の方法を届け出なかった場合によるべきこととされている評価の方法を含め、内国法人がこれを変更しようとするときは、その新たな評価の方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに、所定の申請書を納税地の所轄税務署長に提出し、その承認を受けなければならないとされている。

ところが、原告が所轄税務署長に対したな卸資産の評価方法の選定に係る届出書を提出していないことは当事者間に争いがないのであるから、原告において評価の方法を選択していなかった場合に該当するものというのほかはなく、その評価の方法は最終仕入原価法により算出した取得原価による原価法によるべきことになるのであって、他の方法により評価した金額を計上することは許されない。

そうすると、原告主張の先入先出法による評価の方法は、その会計理論上の当否にかかわらず、右の各規定に違反する独自のものにほかならないから、これを原告の昭和五九年六月期の期末たな卸資産の評価の方法として使用することはできず、原告の評価方法が正当である旨の原告の主張は失当である。

3  前掲の乙第四四号証及び弁論の全趣旨によれば、原告の昭和五九年六月期の確定申告書に添付されている貸借対照表等によれば、原告は同年五月末日現在で、その保有するたな卸資産について、その保管する場所ごとに実地たな卸を行い、別表六のとおり、同年五月末日現在の実地たな卸により把握された数量に、同年六月中の入出庫数量を加・減算して、六月末現在の実地たな卸数量を把握した上、最終仕入原価法による評価額合計一〇三億六六三九万六一七一円を算出し、その金額に諸費用及び関税分八七七万七八〇〇円、輸出用在庫過少計上分七四三万〇〇三四円並びにミツミ電機在庫計上もれ分五四九七万〇一一七円の合計七一一七万七九五一円を加算し、たな卸計上保留分として三億四八九三万九三七三円及び一億七一〇六万〇六二七円の合計五億二〇〇〇万円を減算して、同年六月期の期末における最終仕入原価法によるたな卸資産の評価損が九九億一七五七万四一二二円となる旨修正計算したこと、原告が昭和五九年六月期終了の時において有したたな卸資産の原価法による評価額は、実際価格に基づき先入先出法により算出した取得原価によれば九七億一四三三万一一二〇円であり、同じく最終仕入原価法により算出した取得原価によれば九九億一七五七万四〇〇二円であること並びに後者の最終仕入原価法によれば原告の昭和五九年六月期の期末におけるたな卸資産の評価額が二億〇三二四万二八八二円に増加することが認められる。

そうすると、右の評価額の増加分二億〇三二四万二八八二円相当するたな卸資産の計上もれを生ずるが、原告の経理処理においては、右の分に相当する額を利益に計上をしていないこととなる。

4  原告は、期末たな卸資産の金額を最終仕入原価法による評価額をもって増額して計上すべきものとする場合には、期末における原告の所得金額の計算に際し、価格購入差異の額、すなわちCEL社に対する売掛金として実現済みの所得となっていたものを控除しなければ、両者の重複分について二重に課税する結果になる旨主張する。

(一) 前掲の甲第三号証、第四号証、乙第一五号証及び第四一号証ないし第四四号証、原本の存在につき当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により原本が全部真正に成立したものと認める甲第三七号証、証人両角雅雄の証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告の売上金額のほぼ全額は、コモドール・グループに対するものであること、原告は、CEL社に対する輸出製品及び部品等の納入先をCEL社香港支店としており、その販売価格(納入価格)については、CEL社が設定するCEL単価を使用し、これによるCEL社に対する売掛金は、船荷証券日付後九〇日以内の支払承諾後書類引渡し条件で支払を受けていたこと、原告の会計処理に用いられた完成製品のCEL単価は、海上運賃又は航空運賃及び関税を加えた最新のCEL移転価格に基づくものとされ、遅くともサム・トラミエル名義の東海ほか宛昭和五八年一一月二日付書面による指示の後においては、在庫変動に対処するため、右CEL単価は六か月間の平均原価に基づいて算出されるものとされていること、また、原告は、このCEL単価と実際の調達価格との差額を各取引の都度購入価格差異勘定に計上し、CEL社に対する売上とは区別して計上するものとしていたことが認められる。

右のCEL単価なるものは、原告のCEL社に対する完成製品の標準販売価格を特異な期間平均法に基づいて算出し、これを原告の仕入価格とみなして計算するものであるから、仕入の実際発生額との差額相当額について、これが僅少であれば売上原価に賦課し、多額であれば当期の売上原価と期末たな卸資産とに按分して配賦する等、必要な調整計算をしなければ会計処理の適正を欠くことになるに過ぎない。そして、購入価格差異は、本来ならば売掛金とともに売上の一部を構成する性質のものの一部を、いわば個別法により予めCEL社に帰属させる計算処理上の名目にほかならない。原告がCEL単価を会計処理に用い、かつ、実際の調達価格との差額分を購入価格差異勘定に振替え処理していたこと自体をもって、不相当な方法であるということはできない。

そこで、昭和五九年六月期の期中の購入価格差異について、原告が売上原価及び期末たな卸資産に配賦する等の必要な調整計算をしているか否かについて検討する。

(二) 前掲甲第三七号証によれば、原告の総勘定元帳中のコード番号四九六番(「Purchase PriceVariance」購入価格差異)の勘定項目には、同年五月末における残高として〇円、同年六月中の貸方に「六月分DISCOUNT IN COME 振替」分として三一二六万四三八六円、借方に適用欄の記載なしに一億八一一三万二八四七円、同年六月期末の残高として一億四九八六万八四六一円がそれそれ記帳され、右の残高がそのまま翌期に繰り越されていることが認められる。

そうすると、右の同年六月期末の購入価額差異勘定の残高一億四九八六万八四六一円については、元来はCEL勘定の借方(原告のCELに対する売掛金の増額)へ付け替えられるべきものであったのに、売上原価及び期末たな卸資産に配賦する等の必要な調整計算が行われていないことが明らかである。

5  原告は、昭和五九年六月期末の期末たな卸資産を先入先出法に基づいて評価したところ、一億三八二一万七五三二円の評価差異を生じたが、その金額をコード番号四九二「その他の売上原価」の貸方に記帳して売上原価を減算し、同額をコード番号一二四(「Inventory Variance」たな卸差異)の借方に記帳して期末たな卸資産を増額したから、先入先出法による評価の方法を採用していても、期末における所得の計算に影響を生じない結果になると主張する。

(一) 弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第三八号証、第四〇号及び第四一号証によれば、原告が総勘定元帳中に次の記帳をしたことが認められる。

(1) コード番号一二四番(「Inventory Variance」たな卸差異)の勘定項目には、同年五月中の借方欄の合計として一七六一万三七九三円、同月末における残高として一〇億六三五八万九一五二円、同年六月分として、いずれも摘要欄の記載なしに、貸方に一億三八二一万七五三二円及び五八四四万六〇〇〇円、借方に五八四四万六〇〇〇円、一億三八二一万七五三二円及び一五七六万〇四八五円、同年六月期末の残高としてマイナス一〇億九〇七四万三九八二円がそれそれ記帳され、右の残高がそのまま翌期に繰り越されている。

(2) コード番号四九一番(「OTHER COST OF SALES」その他の売上原価)の勘定項目には、同年五月末における残高として〇円、同年六月分の借方に摘要欄の記載なしに六七〇八万三〇〇〇円及び一億七一〇六万〇六二七円、同年六月期末の残高として二億三八一四万三六二七円が記帳されている。

(3) コード番号四九二番の名称不明の勘定項目には、同年六月分の貸方に摘要欄の記載なしに一億三八二一万七五三二円、同年六月期末の残高としてマイナス一億三八二一万七五三二円が記帳されている。

(4) コード番号四九九番(「Inventory Variance」たな卸資産差異)の勘定項目には、同年五月中の借方欄の合計として五億〇三五八万九五五八、貸方欄の合計として三億五九六三万二五三八円、同月末における残高として一億四三九五万七〇二〇円、同年六月分として、借方に一億二三〇七万九七六〇円、貸方に一二五〇万四三六〇円、五四九七万〇一一七円、及び一五七六万〇四八五円、同年六月期末の残高として一億二八八三万一七〇一円がそれぞれ記帳され、右の残高がそのまま翌期に繰り越されている。

(二) 右(一)の事実によれば、原告主張の一億三八二一万七五三二円の発生金額については、最終的にコード番号四九二番の勘定項目の減算事項として記帳が終了していることになる。しかし、この勘定項目の名称は不明である。仮に、この金額がたな卸資産の評価差異であり、元来はCEL勘定の借方(原告のCEL社に対する売掛金の増額)へ付け替えられるべきものであったとするならば、コード番号四九二番の減額事項として記帳していることは不可解である。そうすると、これがその増額事項としてではなく、減額事項として記帳されていること、右の記帳に係る勘定項目のコード番号が四九一番ではなく四九二番であって、両者が異なる勘定項目であることをも考慮すると、右のコード番号四九二番は、少なくともCEL社とは無関係のものであると推定され、この会計処理をもって、所得の計算に対する影響回避のため必要な調整計算としての合理性を認めることはできない。

6  原告は、昭和五九年六月期の期末に原告が実際に行った処理の結果、四一〇万九五五六円の過大利益を計上することになったと主張する。

しかしながら、原告が期末たな卸評価差異であると主張する一億三八二一万七五三二円の発生金額について、これを減算事項として記帳した勘定項目(コード番号四九二番)は名称もその性質も不明なままである。原告はこれが「その他の売上原価」という勘定項目である旨主張するが、コード番号四九一番(「OTHER COST OF SALES」その他の売上原価)とは番号が異なるものであり、しかも各勘定科目には原告主張の金額の記載があるものの、他に資料はなく、その記載金額の性質及び根拠も不明のままであるから、原告の会計処理がその主張どおりのものであったと認めることはできない。

そうすると、原告の主張には理由がない。原告の昭和五九年六月期の期末におけるたな卸資産の評価額は、最終仕入原価法により二億〇三二四万二八八二円増加すると認められる。

第四本件各更正及び本件各賦課決定の適法性について

一  前記第三によれば、原告の昭和五七年六月期、昭和五八年六月期及び昭和五九年六月期に係る所得金額等は次のとおりである。

1  昭和五七年六月期

(申告額)

〈1〉 所得金額 〇円

〈2〉 繰越欠損金控除額 六三八万九四五七円

(加算額)

〈3〉 損金算入が認められない研究開発費 〇円

(減算額)

〈4〉 繰越欠損金の当期控除額 六三八万九四五七円

(差引)

〈5〉 所得金額(〈1〉+〈2〉+〈3〉-〈4〉) 〇円

〈6〉 翌期繰越欠損金 一億〇二九七万九六二四円

(一) 申告額

所得金額及び翌期繰越欠損金の金額については、当事者間に争いがない。前掲乙第四二号証によれば、原告の修正申告に係る繰越欠損金の金額は一億七三〇二万二六六五円である。

(二) 繰越欠損金の当期控除額

原告の申告に係る所得金額に加算すべきものはないから、当期に繰り越しされた欠損金額を控除することもできない。

(三) 翌期繰越欠損金

申告額のとおりである。

2  昭和五八年六月期

(申告額)

〈1〉 所得金額 マイナス二億三九四七円九九三八円

〈2〉 繰越欠損金控除額 〇円

(加算額)

〈3〉 損金算入が認められない研究開発費 〇円

〈4〉 損金算入が認められない消耗品費 〇円

〈5〉 寄付金の損金不算入額 一億四八四五万七三五〇円

(減算額)

〈6〉 繰越欠損金の当期控除額 〇円

(差引)

〈7〉 所得金額(〈1〉+〈2〉+〈3〉+〈4〉+〈5〉-〈6〉) マイナス九一〇二万二五八八円

〈10〉 翌期繰越欠損金 一億九四〇〇万二二一二円

(一) 申告額

所得金額については当事者間に争いがない。なお、前掲乙第四三号証によれば、原告の申告に係る繰越欠損金の金額は二億三四七〇万〇五一九円、翌期繰越欠損金の金額は三億四二四五万九五六二円である。

(二) 寄付金の損金不算入額

原告が昭和五八年六月期の確定申告において寄付金の損金不算入額はないものとして所得金額を算出していることは、当事者間に争いがない。

本件広告宣伝費相当額の一億四八五〇万七三五〇円は、前記第三の三のとおり、法三七条に規定する寄付金に該当するから、損金に算入することができない。

法三七条の規定によって計算した寄付金の損金不算入額は、次のとおり一億四八四五万七三五〇円となる。

(寄付金の額)

〈1〉 申告額 〇円

〈2〉 寄付金認定額 一億四八五〇万七三五〇円

〈3〉 合計額(〈1〉+〈2〉) 一億四八五〇万七三五〇円

(所得金額仮計)

〈4〉 申告書別表四の20〈1〉の金額 マイナス二億四一四八万一九二一円

〈5〉 更正による増額 〇円

〈6〉 寄付金支出前所得金額(〈3〉+〈4〉+〈5〉) 〇円

〈7〉 〈6〉×2・5÷100 〇円

〈8〉 期末資本均等の金額 四〇〇〇万円

〈9〉 〈8〉×2・5÷1000 一〇万円

〈10〉 損金算入限度額 五万円

〈11〉 差引損金不算入額(〈3〉-〈10〉) 一億四八四五万七三五〇円

(三) 繰越欠損金の当期控除額

原告の申告に係る所得金額に所要の加算、減算をした結果がマイナスの金額であるから、当期に繰り越された欠損金額を控除することはできない。

(四) 翌期繰越欠損金

昭和五七年六月期における翌期繰越欠損金の金額は、前記1のとおり一億〇二九七万九六二四円である。原告の当期に係る申告金額は過大であった。その差額一億三一七二万〇八九五円を控除し、これに昭和五八年六月期末の欠損金額を加算した一億九四〇〇万二二一二円が翌期繰越欠損金となる。

3  昭和五九年六月期

(申告額)

〈1〉 所得金額 四億五五八五万五〇六〇円

〈2〉 繰越欠損金 三億四二四五万九五六二円

(加算額)

〈3〉 売上原価過大計上否認分 一億二四三六万六七三五円

〈4〉 たな卸計上もれ 二億〇三二四万三〇〇二円

〈5〉 損金算入が認められない消耗品費 〇円

〈6〉 寄付金の損金不算入額 〇円

(減算額)

〈7〉 事業税認定損 〇円

〈8〉 繰越欠損金の当期控除額 一億九四〇〇万二二一二円

(差引)

〈9〉 (〈1〉+〈2〉+〈3〉+〈4〉+〈5〉+〈6〉-〈7〉-〈8〉) 九億三一九二万二一四七円

(一) 申告額

所得金額については当事者間に争いがない。前掲乙第四四号証によれば、原告の申告に係る繰越欠損金の金額は三億四二四五万九五六二円である。

(二) 繰越欠損金の当期控除額

昭和五八年六月期における翌期繰越欠損金の金額は、前記2(四)のとおり一億九四〇〇万二二一二円である。

2  以上のとおりであるから、昭和五七年六月期更正並びに昭和五八年六月期更正及び賦課決定は、いずれも原告の所得金額が〇円を超えるものがあるとして納付税額を計算したものであるから、全部違法である。

また、昭和五九年六月期更正及び賦課決定のうち、原告の所得金額を九億三一九二万二一四七円として計算される納付税額を超える部分は違法である、その余の部分は適法である。

第五結論

よって、原告の請求は、昭和五七年六月期に係る更正の全部、昭和五八年六月期に係る更正及び過少申告加算税賦課決定(いずれも裁決によって一部取り消された後のもの)の全部並びに昭和五九年六月期に係る更正及び過少申告加算税賦課決定(いずれも裁決によって一部取り消された後のもの)のうち所得金額を九億三一九二万二一四七円として計算される納付税額を超える部分の各取消を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 榮春彦 裁判官 橋詰均)

別表一

〈省略〉

別表二

〈省略〉

別表三

〈省略〉

別表四

〈省略〉

別表五 BV利息計算表

〈省略〉

別表六

〈省略〉

〈省略〉

別表七 BV勘定の記帳内容

〈省略〉

〈省略〉

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